ゾンビバスター~4人の戦士たち~
 苦しげな声。まぶたはぴくりとも動かず、口だけが震えるように微かに動くだけ。その口元に耳を寄せないとはっきり聞き取れない。

「聖水は……あと少し、だけ……少量で効くかわからないの……だから、もしもの時のために、持っていて」

「ひとみっひとみは大丈夫なのっ!?」

「………」

 いくら名前を呼んでもそれ以来、口を開く様子はなかった。

 ひとみ……‼

 それからしばらく小康状態が続き、ゾンビが現れる兆候もなかった。


 和己のジーンズのポケットに入れた携帯が鳴る。マナーモードに設定しているために、着信は振動で知らせていた。取り出してディスプレイを見る。
 どうやら電話ではなく、メールのようだ。

 屋上に来てくれ。
 聖

 屋上? そういえば周りを見渡しても聖の姿がない。
 誰にも気付かれることなく二人きりで話したいということは、あの話題しかないだろう。
 立ち上がる前に家庭家室内を見渡す。ひとみを間に挟むようにして明美と斎神父が言葉を交わしている。また斎神父のほうがなにやら突拍子もないことをいっているのだろう。明美が険しい表情で文句をいっているようだった。
 壁に寄り掛かっていた背を離し、立ち上がる。小まめに換えてもらえる湿布のおかげで、背中の痛みもかなり引いていた。

 屋上に出るとまずはじめに優しい陽射しのもと、冬の一日とは思えないほどの穏やかな風が出迎えた。

「よっ」

 すぐに聖が笑いかける。手摺りに寄り掛かって屋上に通じるドアが開くのを見守っていたらしい。頷いて挨拶を返し、隣に並んだ。

「今日はそれほど寒くないなっ」

「……そうだな」
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