イジワル上司と秘密恋愛
「わあ、いい景色。山並が一望できますね。あ、頂上の方はもう結構色付いてる」
窓枠に手を掛けて身を乗り出すように景色を眺めていると、
「本当だ。なかなか悪くない景色だな」
そう口にしながら綾部さんは私の身体を覆うように後ろから窓枠に手を付いた。
さりげない、密着。きっと恋人じゃなければありえないポジション。
いつもなら嬉しさと苦しさで半々に染まる私の胸も、今日は気分が開放的なせいか嬉しさの比重が大きいみたい。
そっと、後ろの身体に寄り添うようにもたれかかれば、綾部さんの手が窓枠を離れ私の身体を抱きしめる。
——この街には誰も、私と綾部さんのことを知る人はいなくって。だから、今だけは……本当の恋人のふりをしても許されるかもしれない。
瞼を閉じてそんな勝手なことを想ってから、再びゆっくりと瞳を開いた。
「綾部さん、まだ時間早いし観光か散歩に行きませんか?」
「どっか行きたい? 俺は志乃と一緒に露天風呂入りたいなあ」
「ふふふ、それはあとで」
今日、ここに来て良かったと。私は素直に彼の腕の中で甘えながら、心からそう思った。