イジワル上司と秘密恋愛
旅館から少し歩くと山道の散歩コースになっていて、そこを綴れば観光名所になっている滝や川くだり、珍しい鳥や植物なんかがが見られた。
「こういうしみじみとした旅行もいいね」
足元を流れる沢を眺めながら、綾部さんは緩やかに微笑む。
ネイビーのポロシャツにブラックのタイトなジーンズとホワイトのデッキシューズ。綾部さんのそんなラフな格好も、いつもと違う特別さを感じられて心が弾む。
「私は派手なレジャーよりこういう静かな旅の方が好きですよ」
土が剥き出しの山道の散歩コースを、木の根に躓かないように小さく飛び跳ねながら私が答える。
「へえ。志乃はもっと賑やかなのが好きかと思ってた。動物園とか遊園地とかさ」
「えー? なんかすっごい子ども扱いしてません?」
「全然。志乃はリュックサック背負って水筒持ってキリンや象を見てるのが似合うなんて、これっぽっちも思ってないから」
「ひどーい、綾部さん」
わざと大げさに怒って見せれば、綾部さんは膨れた私の頬を両手で包んで可笑しそうに笑う。
怒って見せた顔を彼につられうっかり笑みに綻ばせてしまえば、綾部さんはますます楽しそうにクスクスと声をたてたあと、そのまま私に唇を重ねた。