面倒くさがりの恋愛
 とりあえず最寄り駅で電車を降りて、画面をスライドさせる。

「もしもし!」

『ああ。良かった。出てくれたね』

 聞こえてきたのは、間違いなく生嶋さんの声で。

『申し訳ないけれど、今、ちょっと時間もらっても良い?』

「いいですよ。電車降りましたから」

『え。いや、それはゴメン。そうか、帰宅時間だよね』

「それで用件は?」

 スマホの向こうで笑う気配がして、それから困ったような声が聞こえた。

『楠……覚えている?』

「はい。昨日の今日で忘れていたら、逆に驚きますが」

『楠のジャケットに、何故かiPhoneが入っていてね。白とピンクの花柄のカバーがついたので、もしかしたら、君の友達のじゃないかな……と』

 思わず口をあんぐりと開けた。

 何をしているんだ、紗理奈!

 馬鹿じゃないの、馬鹿じゃ!

 連絡先を交換したとか言って、ニコニコしていたくせに、その肝心要の端末ごと相手に渡してどうするんだ!

『間違いなさそうだね。渡すから、今から会える?』

「え? 紗理奈に伝えます。あの子は三代持ちなんで、すぐには困らないと思いますし、楠くんと会える口実が出来て喜ぶと思いますし」

『そんなに邪険にしなくてもいいよ。俺も君に連絡する口実が出来て喜んだし』

 いやいや知らないし。

『それに、彼女の端末は俺が預かってきているし。俺が彼女に会いに行っても怒られるだけで嬉しくないし』

「怒られる?」

『楠に』

 真顔の生嶋さんが、楠くんに怒られる姿を想像して吹き出した。

 何だか、とてもおかしな事になりそうなんだけど。

 それはそれで見てみたいけど。

「わ、わかりました。じゃあ、どこかで待ち合わせしましょう」

『ああ。それなら迎えに行くよ。今はどこの駅?』

 降りてしまった駅名を告げて、ホームで待っていればいいのか、降りていた方がいいのか場所を決める。

 降りていて、とのことだったので改札を抜け、生ぬるい風に眉をしかめた。
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