20億光年の孤独
僕は知らない
アキさんに始めて会った日のことをいまでも鮮明に憶えている
ずいぶんと蒸し暑い日だった
盆地のこの地方の夏はじめじめとして肌にまとわりつく
アブラゼミの声もうるさかった
その日僕は父さんと水族館に行く約束をしていた
父さんと僕が一緒に遠出するなんて
とても珍しいことだった
僕は夏休みの予定表に予定らしい予定を書けることに満足していた
父さんがクルマのエンジンをかける
僕は助手席に乗り込み、緩めのシートベルトを締める
水族館までは車で30分くらい
僕はそこに初めて行く
アキさんに出会ったのは水族館の喫茶店だった
彼女はいくらかのお土産をイスに掛けて
アイスコーヒーを飲んでいた
アキさんはコーヒーはブラック派だって父さんと話していた
にがみを味わう飲み物だって
アキさんと話している父さんはなんだか別人のような気がした
とても幼く見えた
アキさんは父さんよりずっと若いはずなのに
父さんと一緒にいても違和感がないことに
僕は不思議に思った
あれが、8歳の夏休みだった