最期
「あなた……

やっと二人になれたわねぇ……」


お骨(こつ)を覆っている白い布を軽く撫でながら、そう声をかける。


仕事が忙しかった夫とは、あまり会話もなく、思い出と呼べるものもほとんどない。


若い頃は、借金を重ねギャンブル三昧で、それでも仕事には真面目だった。


帰宅はほとんどが日付をまたいでからだったし、もちろん家事や育児を手伝う時間などない。


三人の子供を抱えて一度は離婚しようと思った。


家裁に出かけ、こちらの意思を伝える。


さすが営業職なだけあって、口は上手いようだ。


家裁の相談員の夫の評価は好印象で、私の方が宥められる始末。


別々の部屋で別々の時間に、お互いの意思を伝えたけれど、離婚を踏みとどまったのは、一人の女性相談員の言葉だった。




「三人のお子さんを置いて家を出ることが出来ますか?」




ショックだった。


まだ幼いあの子達を置いて、家を出れるわけがない。
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