Seventh Heaven
第一章 真紅の世界
「ここは、どこ?」
なゆたが教室のドアを開けると、一面、真紅の世界が広がっていた。
空も、大地も、草木や砂、あらゆるものが赤一色に染まった世界。
それは、気が狂いそうな程に原色の赤である。
そこは、現実とは到底思えない世界だった。
そして、そこには彼女以外、人も動物の姿も全くない。
「夢?」
おもむろになゆたは、振り返る。
すると、彼女が開けたはずのドアはもうそこには存在していなかった。
「嘘…」
言葉を失った。
ドアを開けた瞬間に、彼女は異次元にでも迷い込んでしまったのだろうか。
これが、夢でないならば、元いた現実世界に戻ることは、容易ではないだろう。
現実世界。
それは、女子校に通うなんの変哲もない一高校生のなゆたが、教室のドアを開けるまでは、たしかに存在していた世界。
しかし、本当にその世界は「現実」だったのか?
本当は、こちらの世界こそが「現実」だとしたら?
制服を着ていたはずのなゆたの身なりは、いつの間にか、全身純白のゴシックロリータ姿へと変わっている。
花の髪飾り、ロココ調の意匠をこらした燕尾のジャケットとパニエでボリュームを持たせた膝丈程の長さのスカート。
なゆたは、こちらの世界が「現実」だと思えるはずが無かった。
「行こう」
自分に言い聞かせるかのように、なゆたはつぶやく。
退路が断たれた今、とにかく前へ進むしかなかった。
あてもないまま、なゆたはゆっくりと歩き出す。
北へ向かっているのか、南へ向かっているかさえ、わからずに。
どこまで歩いても変わらない景色が延々と続く。
「ここは、どこかで?」
既視感だろうか。
彼女は、この世界を知っているような気がしてならなかった。
どこかで、これに似た光景を目にしたのかもしれない。
それは、映画か、アニメか、夢だろうか。
しかし、どれだけ記憶を辿っても、彼女はそれを思い出すことができなかった。
それでも、彼女は歩き続けた。
このまま、歩き続けた先に何かがあるという確証は無い。
それでも、彼女は歩き続けるのだった。
どれだけ歩いただろうか。
ふいに、彼女の視界に飛び込んできたのは、大きな城だった。
丘の上に建つ赤い城。
中世ヨーロッパの城のような、歴史を感じさせる外観は、遠くからでも、その美しさ、気高さ、荘厳な雰囲気を感じ取る事ができる。
しかし、彼女は、その城から、言葉では言い表せない恐ろしさを感じ取っていた。
あそこには、必ず何かある。
そう直感したなゆたは、無意識のうちに駆け出していた。
赤い森を抜け、山を越え、丘を上がり、彼女は城へとたどり着く。
その佇まいは、威圧的。
荒ぶる感情を具現化したような高圧的な雰囲気を醸し出している。
彼女は吸い込まれるように、鋼鉄製の巨大な扉に近づく。
そして、扉に手を触れようとした、まさにその時だった。
「え」
巨大な扉は、ゆっくりと自ら開いたのである。
まるで、彼女を招き入れるかのように。
「…」
口を開けて、獲物を待っているかのような、その扉の仰々しい姿は、あまりにも不気味である。
戦慄が走る。
この先へ進むのは、あきらかに危険である。
なゆたは、一瞬躊躇する。
このまま、進むか。
それとも、引き返すのか。
しかし、進むしか選択肢はないのだ。
このまま、この城を後にしたとしても、他に行く当てなどない。
城に入らない選択は、すなわち、この真っ赤な世界に、永遠に留まる事を意味するのだ。
彼女は意を決して、城内へと足を踏み入れた。
次の瞬間。
轟音と共に、勢いよくひとりでに扉が閉まったのである。
それは、彼女をこの城に閉じ込めようとする明確な意思表示であった。
ここには、絶対何かある。
恐怖を覚えながらも、なゆたは確信した。
そして、彼女は、緊張しながらも、静寂が支配する長い廊下を突き進む。
ふいに、足元に視線を向ける。
床に敷かれた絨毯には、塵ひとつ落ちていない。
手入れの行き届いた美しい城内。
にも関わらず、人の気配は全く無い。
違和感を感じながら、彼女は、無言のまま、歩き続けた。
そして、しばらくすると、やがて、彼女は、巨大なシャンデリアがある広いロビーへと辿り着いた。
「ようこそ、私の楽園へ」
この世界で初めて聞く人の声。
ロビーの奥から聞こえてきたのは、感情がまったく感じられない女性の声だった。
人の声を聞き、安堵を覚えるも、彼女の緊張が解ける事はなかった。
「どこ?」
「あなたは、誰?」
「ここはどこなの?」
あたりを見回しても、声の主の姿はどこにもない。
そして、なゆたの問いかけに対しての返事も無い。
空耳だったのか?
次の瞬間だった。
なんと、巨大なシャンデリアが、彼女めがけて落下してきたのだ。
城内に響き渡る破壊音。
わずか数センチであった。
彼女は、とっさに体を投げ出し、それをかろうじてかわしていた。
もし、あの下敷きになっていれば、彼女は今頃、生きてはいなかっただろう。
なゆたは、恐怖心からしばらく立ち上がれずにいた。
「危なかった…」
彼女は、ようやく立ち上がるが、その脚はいまだ、小刻みに震えていた。
なゆたが教室のドアを開けると、一面、真紅の世界が広がっていた。
空も、大地も、草木や砂、あらゆるものが赤一色に染まった世界。
それは、気が狂いそうな程に原色の赤である。
そこは、現実とは到底思えない世界だった。
そして、そこには彼女以外、人も動物の姿も全くない。
「夢?」
おもむろになゆたは、振り返る。
すると、彼女が開けたはずのドアはもうそこには存在していなかった。
「嘘…」
言葉を失った。
ドアを開けた瞬間に、彼女は異次元にでも迷い込んでしまったのだろうか。
これが、夢でないならば、元いた現実世界に戻ることは、容易ではないだろう。
現実世界。
それは、女子校に通うなんの変哲もない一高校生のなゆたが、教室のドアを開けるまでは、たしかに存在していた世界。
しかし、本当にその世界は「現実」だったのか?
本当は、こちらの世界こそが「現実」だとしたら?
制服を着ていたはずのなゆたの身なりは、いつの間にか、全身純白のゴシックロリータ姿へと変わっている。
花の髪飾り、ロココ調の意匠をこらした燕尾のジャケットとパニエでボリュームを持たせた膝丈程の長さのスカート。
なゆたは、こちらの世界が「現実」だと思えるはずが無かった。
「行こう」
自分に言い聞かせるかのように、なゆたはつぶやく。
退路が断たれた今、とにかく前へ進むしかなかった。
あてもないまま、なゆたはゆっくりと歩き出す。
北へ向かっているのか、南へ向かっているかさえ、わからずに。
どこまで歩いても変わらない景色が延々と続く。
「ここは、どこかで?」
既視感だろうか。
彼女は、この世界を知っているような気がしてならなかった。
どこかで、これに似た光景を目にしたのかもしれない。
それは、映画か、アニメか、夢だろうか。
しかし、どれだけ記憶を辿っても、彼女はそれを思い出すことができなかった。
それでも、彼女は歩き続けた。
このまま、歩き続けた先に何かがあるという確証は無い。
それでも、彼女は歩き続けるのだった。
どれだけ歩いただろうか。
ふいに、彼女の視界に飛び込んできたのは、大きな城だった。
丘の上に建つ赤い城。
中世ヨーロッパの城のような、歴史を感じさせる外観は、遠くからでも、その美しさ、気高さ、荘厳な雰囲気を感じ取る事ができる。
しかし、彼女は、その城から、言葉では言い表せない恐ろしさを感じ取っていた。
あそこには、必ず何かある。
そう直感したなゆたは、無意識のうちに駆け出していた。
赤い森を抜け、山を越え、丘を上がり、彼女は城へとたどり着く。
その佇まいは、威圧的。
荒ぶる感情を具現化したような高圧的な雰囲気を醸し出している。
彼女は吸い込まれるように、鋼鉄製の巨大な扉に近づく。
そして、扉に手を触れようとした、まさにその時だった。
「え」
巨大な扉は、ゆっくりと自ら開いたのである。
まるで、彼女を招き入れるかのように。
「…」
口を開けて、獲物を待っているかのような、その扉の仰々しい姿は、あまりにも不気味である。
戦慄が走る。
この先へ進むのは、あきらかに危険である。
なゆたは、一瞬躊躇する。
このまま、進むか。
それとも、引き返すのか。
しかし、進むしか選択肢はないのだ。
このまま、この城を後にしたとしても、他に行く当てなどない。
城に入らない選択は、すなわち、この真っ赤な世界に、永遠に留まる事を意味するのだ。
彼女は意を決して、城内へと足を踏み入れた。
次の瞬間。
轟音と共に、勢いよくひとりでに扉が閉まったのである。
それは、彼女をこの城に閉じ込めようとする明確な意思表示であった。
ここには、絶対何かある。
恐怖を覚えながらも、なゆたは確信した。
そして、彼女は、緊張しながらも、静寂が支配する長い廊下を突き進む。
ふいに、足元に視線を向ける。
床に敷かれた絨毯には、塵ひとつ落ちていない。
手入れの行き届いた美しい城内。
にも関わらず、人の気配は全く無い。
違和感を感じながら、彼女は、無言のまま、歩き続けた。
そして、しばらくすると、やがて、彼女は、巨大なシャンデリアがある広いロビーへと辿り着いた。
「ようこそ、私の楽園へ」
この世界で初めて聞く人の声。
ロビーの奥から聞こえてきたのは、感情がまったく感じられない女性の声だった。
人の声を聞き、安堵を覚えるも、彼女の緊張が解ける事はなかった。
「どこ?」
「あなたは、誰?」
「ここはどこなの?」
あたりを見回しても、声の主の姿はどこにもない。
そして、なゆたの問いかけに対しての返事も無い。
空耳だったのか?
次の瞬間だった。
なんと、巨大なシャンデリアが、彼女めがけて落下してきたのだ。
城内に響き渡る破壊音。
わずか数センチであった。
彼女は、とっさに体を投げ出し、それをかろうじてかわしていた。
もし、あの下敷きになっていれば、彼女は今頃、生きてはいなかっただろう。
なゆたは、恐怖心からしばらく立ち上がれずにいた。
「危なかった…」
彼女は、ようやく立ち上がるが、その脚はいまだ、小刻みに震えていた。