Seventh Heaven
「お待ちしていましたよ」

ふいに彼女の前にあらわれたのは、真っ赤な制服に身を包んだ少女だった。

真っ赤なセーラー服。
それは、まるで、コスプレ衣装のようだ。

大きな襟、リボンはあるが、袖は無く、いたるところに宝石がちりばめられている。

ブラウス、スカートともにフリルとゴシック調の装飾があしらわれ、ロリータファッションを連想させるデザイン。

透き通るような美しい赤い髪の先端をカールさせたツインテールを揺らし、少女はゆっくりと歩く。

あどけなく、愛らしい顔立ち、大きな真紅の瞳。白く、華奢な体躯は、まるで、人形のようである。

しかし、水晶のように曇りのない真紅のその瞳には、一切の感情が存在しない。

ひとつ言えるのは、感情こそ読み取れぬものの、彼女をみつめるその視線はあまりにも冷たい。

この城へやってきたなゆたを、こころよく迎えていない事は明白だった。

「早速始めましょうか」

「はじめる?なにを?」

「殺し合いですよ」

彼女が手にしているのは、赤一色のレイピア。

「なんのつもり」

「キミがここにきた目的を、私は知っている」

「わたしがここにきた目的?」

「ええ。それは、私を殺すこと。そして、私がここにいる目的は」

剣を構える赤い瞳の少女のその目は、あからさまな殺意に満ちている。

なゆたは確信する。
あの剣は、玩具などではなく、本物であると。

「キミを殺すこと!」

赤い瞳の少女は、突然、なゆたに襲いかかったのだ。

「ちょっと、待って!」

しかし、少女は聞く耳を持つことなく、攻撃を繰り出した。

直線的に繰り出される突き。

「く!やめてよ!」

なゆたは、寸前でそれをかわす

「よく、かわせましたね。いつまで、かわし続けられるでしょうか?」

少女は、彼女を攻撃することに、なんのためらいを感じていない。
明確な殺意をもって、鋭い突きを繰り出すのだ。

「どういうつもりなの!」

それを、なゆたは素早い身のこなしで、なんとかかわす。

それは、まるでダンスのステップを踏むかのように優雅に。

「ふふふ、とても綺麗ですよ。でも、私って、綺麗なもの程、壊したくなるんですよね!」

少女の攻撃は、止まらない。
それを、必死にかわし続ける事しか、今のなゆたにできる事はない。

「痛ッ」

少女の攻撃をかわし続けるなゆただったが、思わず声を上げた。
レイピアがかすめた彼女の左腕からは、ひとすじの血が流れている。
流れる血は、純白のドレスを赤く染める。

「真っ赤に染めてあげる!」

少女は、嬉々とした笑みを浮かべ、より激しい突きを繰り出しながら、なゆたに迫る。

その攻撃はまさに苛烈。

武器をもたないなゆたは、反撃などかなわず、ひたすら攻撃を避けるしかないのだ。
なゆたは、確かに少女の攻撃をかろうじてではあるが、かわしていた。

「うっ!ううっ!なぜ!」

しかし、攻撃を避けているはずなのに、体中が刻まれてゆく。
全身から滴り落ちる血液。

「ふふふ、もっと遊んでくださいよ」

そう、少女は、なゆたをいたぶって楽しんでいるのだ。

少女は、なゆたがかろうじて避けられるように、わざと大振りな攻撃を繰り返しながらも、
その合間にはなゆたが目に追えない攻撃を織り交ぜ、その体を切り刻んでいたのである。

なゆたは、全ての攻撃をかわしていると思っていたが、実際にはそうではなかったのだ。

「いい眺めですよ、ふふふ」

切り刻まれていくたびに、血まみれとなった彼女の肌はあらわになってゆく。

彼女は、はだけた上半身を両手で隠すと、思わずその場にひざまづいた。

「あらあら、悩ましいですね。ふふふ」

ひざまづくなゆたに対し、剣先を向ける少女。

「もっと、愛らしい声で鳴いて下さいよ!」

「うっ!うあああっ!」

剣先を右の大腿部に突き立てられ、あまりの激痛に耐え切れず、なゆたは、悲鳴をあげた。

「もうおしまいですか?もっと楽しませてくださいよ!」

赤い瞳の少女は、なゆたを見下しながら、笑っている

この全身の痛みは、けして夢などではない。

もはや、やられるのは時間の問題だ。
右足を負傷したなゆたは、羽をもがれた蝶も同然である。
攻撃をかわすことすら、もはや困難な状況である。
仮に、これまでのように、かわし続けたとしても、いずれやられるのは間違いない。

彼女は気づいていないが、少女との力の差は歴然であるからだ。

「もう死にますか?」

少女は、凍りつくような眼差しで、なゆたをみつめながら、レイピアを振り下ろした。

殺される!

なゆたは、死を覚悟した。

いや、こんなところで死にたくない!
殺されてたまるか!

だが、同時に、生への執着が生まれる。

なゆたは、無意識のうちに握りしめた拳を頭上に掲げていた。

次の瞬間、甲高い音がロビーに鳴り響く。
それは、金属同士がぶつかり合う音だった。

なゆたは、なんと、刀身の黒い日本刀を握りしめていたのだ。
そして、少女の剣を、無意識のうちにその刀で受け止めていたのだ。

それは、現実ではありえない出来事である。

なゆたが死を覚悟し、同時に生きたいと願った瞬間、その手に日本刀が現れたのである。

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