Seventh Heaven
「どうして?剣の攻撃なら通るの?」

わたしは、真紅との戦いにおいて、使用した日本刀を頭の中でイメージし、それを具現化させた。

「おいっ、待ってくれよ!」

金色の少女が眠るハンモックの前に突然姿を現したのは、大きなクマの着ぐるみだった。
身長は2メートルくらいはあるだろうか。
愛くるしいその姿は全身、金色に輝いている。

「な、なにあんた」

「妖精です」

「着ぐるみでしょー!中に人いるんでしょ」

緑夢は、着ぐるみに飛びかかり、着ぐるみをはがそうとしている。

この着ぐるみ、じゃなくて、妖精。
緑夢を吹き飛ばしたのは、確実にこいつの仕業だ。
姿を消して、金色の少女を守っていたのだろう。
剣での攻撃に驚いて、たまらず姿を見せたのか。

「ようするに、この妖精を倒さない限り、ハンモックには近づけないわけね」

「そういう事だ!ふたりとも、まとめて相手してやるぜ!」

着ぐるみは、両手に巨大な刀を具現化させると、キャラだけでなく、リアルな劇画タッチの顔面へと変貌したのだ。

「ブッ倒してやる!この甘ちゃんがーッ!」

二本の刀で攻撃を仕掛けてきた気持ち悪いクマに対し、わたしと真紅は剣と刀でそれを防いだ。

「この生意気女どもがァーッ!」

クマは、真紅に向けて刀を振り回す。

「真紅、右!」

「わかってますから!命令しないでくださいよ!」

真紅はかろうじて、右からのなぎ払いをかわす。

「真紅っ、あぶない!」

しかし、二刀流のクマは、真紅の死角となる上からの攻撃を既に仕掛けていたのだ。

わたしは、とっさに真紅を突き飛ばした。

「痛いっ!なにするんですか!」

「チビスケのくせに、チョロチョロするんじゃねェーッ!」

しかし、今度はわたしに向けて、次の攻撃が迫ってくる。
真紅を突き飛ばした体制から、防御に転じるには、間に合わない!

「あなたこそ、隙だらけですよ!」

「わっ」

わたしをかかえて、上空へ跳躍する真紅。
クマの攻撃から、真紅がわたしを助けてくれたのだ。

「ありがとう!」

「べ、別に助けたわけじゃ!ひとりより、ふたりのほうが勝てる確率あがるから!」

その後も、息のあった動きで、お互いにフォローしながら、クマの攻撃を防ぐわたしと真紅。

その間も、金色の少女は、眠ったままだ。

その時である。

「おらーっ!」

緑夢である。

そして、ハンモックから、転げ落ちる金色の少女。

なんと、戦いに参加していなかった緑夢が、わたし達が戦っている隙をついて、金色の少女をハンモックから引きずりおろしたのだ。

「いたーい!」

「ふふふ、罠にかかりましたね」

「このぉー!卑怯じゃないかー!やっぱ、妖精を倒さなきゃ、あんた達の勝ちは認めなーい!」

「へへへ。タコスケども、ブッ倒してやるからな、へへへ」

気色の悪い笑みを浮かべながら、わたし達に迫り来るクマ。

「そんな道理は私が許すかっつーの!」

「うごがーっ!」

緑夢の強烈なパンチが、クマに炸裂する。
クマは、一瞬にして、天井を突き破り、空のかなたへと消えていった。

「す、すごい、緑夢!というわけで、この勝負、わたしの勝ちだね」

わたしは、床に転げ落ちたままの少女に向かって言う。

「は?何言っちゃってくれてんの?勝ったのは、パンチのヤツであって、あんたじゃないでしょ」

ここにきて、まだ負けを認めない金色の少女。
開いたくちが閉まらない。
このひねくれた子は、どうしたら負けを認めるの?

「おやすみなさい、ぐう」

金色の少女は、ハンモックに上ると、すぐに寝息を立て始めた。

「もう!どうすればいいのよー!」

「眠り姫は、王子様のくちづけで目を覚ます…」

「緑夢、それ、冗談で言ってるんだよねえ!」

わたしは、緑夢に黒刀を突きつける。

「殺すしかないでしょうね」

真紅は、剣を構えた。
たしかに、緑夢の考えが正しいなら、この少女を殺せば、この世界は消滅する。
それなら、七咲さんも救えて、この世界からも脱出できるはず。

「だめ、真紅!」

「どうしてですか?時間の無駄ですよ、こうなってしまっては」

「起きて!起きてってば!」

熟睡する金色の少女の体をゆすっている、まさにその時だった。

「この猿どもがァーッ!これで終わりにしてやるわァーッ!」

上空から急降下してきたのは、緑夢のパンチによって、彼方へ消え去ったと思われたクマだった。
クマは、発狂しながら、上空から、わたしめがけて斬りかかってきたのだ。

「危ない!よけなさい!」

真紅の声に、とっさにわたしはその場から飛びのいた。

「ぐはっ!!!」

飛び散る血しぶき。
そう、クマの攻撃は、眠っている少女を直撃したのである。

「ギィヤァーッハッハッハ!ラクにしてやる!あの世にいかせてやる!地獄にいかせてやる!」

クマは恐ろしい形相で、金色の少女に繰り返し攻撃を加えるのだった。

「危ない!よけなさい!なゆた!」

真紅の声。

だめだ。
もし、わたしが避けたら、この子は…。
わたしには、この子を見捨て、その場を離れることなどできなかった。

その時、ふいに金色の少女のまぶたが開いたのである。

「えっ」

わたしは、その宝石のようにあまりにも美しい金色の瞳をみつめた。
これが、わたしが目にする最後の景色になるのか。
それなら、それで構わないと、わたしは思ったんだ。
しかし、その金色の瞳の奥に広がる深い闇に触れた瞬間、わたしの中に誰かの意識が流れ込んできたのである。

七咲さん…?

「わたしが寝てる時にどうして、わたしを置いていかないで、お母さん!
わたしなんて、生まれてこなければよかったのに!」

幼い七咲さんらしき少女は、部屋で泣き喚きながら、自傷行為を繰り返している。
その目の前には、彼女の母親が残したと思われる手紙が一通。

「さようなら、そして、ごめんなさい」

一言だけ書かれた手紙。

「ああああああああーっ!」

手紙を目の前にして、七咲さんは絶叫する。

金色の瞳から溢れ出す涙。

「あなた」

「私だって、本当はつらかった。でも、どうやったら、あの子を助けられるかわからなくて。寝ていれば、あの子の声を聞かずに済むから」

泣きじゃくる金色の瞳の少女を、わたしはそっと抱きしめる。

「もう大丈夫。この世界がなくなっても、わたし達がいるから」

「うん…」

抱きしめあうわたし達。

上に視線を向けると、目前まで迫っていた刀は煙のように消え、続けてクマの姿も消え去ったのだった。

それは、まさに金色の少女が、わたしに心を許し、この世界が消滅した事を意味していた。

終わったんだ。

「まったく、あなたって人は。ギリギリでしたよ。それにしても、わたし達がいるからって、何。私まで加えないでもらえますか」

真紅は、横を向いて言う。

「あんなに仲良く戦ってたくせに!」

ぐりむが真紅を突き飛ばすと、その勢いで真紅は、金色の少女と抱きしめあっているわたしに抱きついてきた。

「だから、こういう馴れ合いとか、嫌いなんですって!」

真紅はわたしから離れようとするが、そうはさせまいと、

「仲間仲間ー!」

と大声をあげ、ぐりむまで飛びついてくるのだった。

「じゃ、恒例の命名式いきましょかー!」

「えっ。そんなすぐに言われても思い浮かばない…って、頭が痛い!」

この世界から離脱の時。

「逃げる気かー!」

「次までに考えといてよー!」

みんな、わたしの事なんて心配してくれちゃいない。
また、いつもの頭痛か、という感じの態度にいらつきながら、わたしは意識を失うのだった。
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