Seventh Heaven
「ならば、真紅を打ち負かす程の技、見せてみよ!」

彼女は、わたしに斬りかかってきた。

戦いは、突然始まった。

「そっちがその気なら!」

わたしは、右手に黒い刀を具現化させ、彼女の攻撃をとっさに防いだ。

「反応は、なかなかだな!」

刀と刀がぶつかると、わたしの頭上で、激しい鍔迫り合いが始まった。

「さあ、いつまで耐えられるかな?」

「くっ!」

彼女のちからは、女性のものとは思えない。
しかし、わたしはもう誰にも負けるわけにはいかないんだ。
わたしは、左手を刀身に添え、彼女の刀を押し返す。

「思ったより、ちからもある」

「余裕見せてる場合じゃないんじゃないの!」

今度は、こちらから攻め込んだ。
わたしは、地を蹴り、彼女との距離を一気に詰める。
あれだけ長い刀は、接近戦に向いていないのはあきらかだ。

「ま、待てっ、待てっ」

「あんたが最初にかかってきたんでしょうが!」

わたしが繰り出す攻撃を、彼女はその長い刀で器用に防ぐ。
あんな長い刀を、まるで手足のように自在に操るなんて、彼女はただものではない。

彼女の動きには、全く無駄がない。
彼女は最小限の手首の切り返しだけで、刀を振っている。

その表情にも余裕があるように見える。
それに対し、攻めているはずなのに、わたしの方が余裕を失っていく事を、わたし自身気付き始めていた。

なぜ?わたしの方が、攻めているのに?

わたしの攻撃には、無駄があるとしても、それを防ぐ為に必要な集中力は、守る側の神経をすり減らしていくはずなのに、彼女は違う。

わたしの攻撃を軽く受け流しているように感じられる。

それどころか、わたしは違和感を覚えずにはいられなかった。
しかし、その違和感の正体が何かはわからない。
わたしは、とにかく攻め続けた。

そして、その瞬間は訪れた。

休む間もなく、わたしが繰り出す斬撃を防ぎ続ける彼女にわずかな隙ができたのを、わたしは見逃さなかった。

長い刀で、攻撃を防ぐ瞬間、彼女ほどの達人であっても、ほんのわずかな隙ができるとわたしは予想したのだ。
全ての攻撃を防ごうとすれば、わずかずつでもその隙は蓄積されてゆく。

そして、それが蓄積され尽くした時、大きな隙が生まれる、と。

そのわたしの予想は、正しかったのだ。
今、この瞬間、彼女の次の防御行動は、わたしの攻撃には間に合わない。

「わたしの勝ちだ!」

わたしが攻撃を繰り出した瞬間だった。

「えっ」

わたしの目の前に突きつけられた刀の先端。

ほんの一瞬の差。

わたしが彼女を討ち取るよりも、ほんのわずかな差で、わたしは彼女に討ち取られたのだ。

「な、なぜ、確実に隙をついたはずなのに!なぜ!」

「貴様が我に勝てなかったのは、まだまだ、戦いを知らぬからだ」

「戦い?」

「我は、貴様の攻撃を防ぎながら、わずかずつ攻撃に移る為に準備していたのだ。一撃でそなたを仕留める為のな」

あの違和感は、彼女が単に守りに入っていたのではなく、その実、攻撃を仕掛けていたからだったのか。

「まさか、あの隙は?」

「そうだ。貴様の攻撃を誘うための布石。そして、我は貴様の攻撃よりも先に最後の一撃を仕掛けていた」

負けた。
彼女は、わたしや、真紅をはるかに超えている。

「長い刀を使ったのは、その強さを誇示するためだったのか?」

「いいや、そうではない。貴様の頭にある先入観を壊す為だ。長い刀は、接近戦に弱いというな」

「わたしの負けだよ。あなたは強いよ」

「さて、修行を始めるぞ。貴様のちからを伸ばしてやろう」

「えっ」

「どうせ、貴様は我に負けたからといって、簡単にその信念を曲げるような人間ではなかろう。剣をかわせば、全てわかる」

「バレてた」

「可能性は極めて低いが、貴様の望みに沿うならば、もはや方法はたったひとつしかない。それを、これから貴様に与えてやろうというのだ」

「あんたって、変態だけどいい人だったんだね」

「変態というな!教えぬぞ!」

「す、すんません」

「まず、その刀でこの世界。今、我らは世界の裏側にいるわけだが。斬ってみろ」

「は?この世界を斬る?どうやって?」

「いいから、本気でやってみろ」

「わかった。よーし!」

わたしは、少女に言われるまま、刀を構えた。

「うえーいっ!」

そして、刀を振り下ろし、全身全霊、全力を込めた斬撃を放った。

「…」

しかし、刀は当然空を斬っただけである。

「今は、斬れなくて当然だ。だが、ちからをつければ、斬れるようになる。それは、世界の支配者の限界を超える者でなければ、できぬ行為だ」

「あんたにはできない、と?」

「そうだ。だから、我が手取り足取り修行してやるからな、くくく」

「あの、そのいやらしい笑み、やめてくれない?」

「そなたが、ちからをつければ、世界の裏側から斬ることで、世界自体を消滅させられるのだ」

「え、すごい!じゃあ、あの子と戦わなくても?」

「だが、この方法には、大きな問題がひとつある。しかし、貴様にはこの方法以外に選択肢はない。その問題については、後で教えよう」

問題か。大きな技を使うには、それなりのリスクが伴うということなのだろうか。

「それと、世界を斬る事は、貴様の魂を多量に消費する。三度目を使った時、命を落とす事になる」

「でも、この世界を入れて3つ」

「…我を殺せ」

「は?」

「紫の世界ともうひとつの世界で、2回。それならば、事足りるだろう」

「そんなのできない。わたしはあなたを殺せない」

「まさか、愛しているからか?そうなのかっ!んっ!」

少女は、真顔で迫ってきた。

「ば、ばかじゃないの、あんた。こんなときによくふざけていられるわね。正直、殺せなんて、そんな気なかったんでしょ、どうせ」

「どうせとはなんだ、どうせとは!とにかく、修行をはじめるぞ!我の修行は苦しいものと覚悟しろ」

「はいはい」

なんだか、先が思いやられるな。
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