Seventh Heaven
「戦うしかないのか」
なゆたは、レイピアを刀ではらいのけると、痛みを堪えながらも立ち上がった。
「ふふふ。ここからは、本気で行きますよ」
風をも切り裂くかのような、鋭い突き。
少女の攻撃は、一層苛烈を極めた。
「どうして!こんなことを!」
「それは、キミを殺す為だけに、私が存在するからですよ!」
「そんな存在、わたしは認めない!」
レイピアでの鋭い突きの連打を、刀で防いでゆく。
歯をくいしばり、彼女はその猛攻に耐え続ける。
一瞬でも気を抜けば、剣先が肉体を貫く事になるだろう。
「守ってばかりでいいのですか?」
少女の言う通りであった。
このまま防戦一方では、押し切られるのは、時間の問題だ。
攻撃に反応しながらの防御は、莫大な集中力を求められるために、攻撃をする側以上に精神力を激しく消耗してしまうのだ。
「やるしかない!」
なゆたは、攻撃に転じる覚悟を決める。
「うおおおっ!」
彼女は、声をあげ、少女に向かって斬りかかったのだ。
しかし、他人を傷つけた事のないなゆたにとって、本気で真剣を振るう事はできず、無意識の内に力を緩めてしまう。
「あら?手加減してる余裕なんてないんじゃないですか?」
少女は、なゆたの攻撃を軽く剣先で弾く。
「本気を出さないと、本当に死んじゃいますよ?」
少女が繰り出した高速の突きは、なゆたの左肩を貫いた。
「痛いですか?私の事が憎いですか?怒りを覚えるでしょう?」
少女がレイピアを抜き取ると、なゆたの肩からは勢いよく鮮血が噴き出した。
「くっ!」
思わず、なゆたは刀を落としてしまった。
「さあ、拾いなさい。その魔性の刀を!そして、私を殺してくださいよ!」
「このッ!」
彼女は、刀を拾うと同時に渾身のちからを込めて、刀を振り下ろした。
そう、生きる為に決意したのだ。
少女を倒さなくてはならない、と。
「やればできるじゃないですか!」
少女は、剣先でなゆたの斬撃を受け止めた。
刀と剣がぶつかり合ったその瞬間、大きな力と力の反発により、衝撃波が発生し、ふたりは後方へと吹き飛んでゆく。
「そう、これが!これこそが、殺し合い!」
地を蹴り、宙を舞い、一瞬にして距離を詰める少女。
少女は、まるで水を得た魚のように、なゆたに対し、激しく攻め込んだ。
高速の突きの連打に対し、彼女も斬撃で応酬する。
力と力がぶつかり合うたびに、爆風が巻き起こる。
床に敷かれた絨毯ごと、地面はえぐられ、城内の壁に亀裂が走る。
そして、衝撃波により、ふたりの体が宙に浮くと、ふたりは空中にありながらも戦いを続ける。
衝撃波が発生するたびに、ふたりの体は、より高く宙に浮き、やがて、天井付近にまで来ると、天井はとうとう崩落を始めた。
戦いは、まさに烈火のごとく、熾烈なものだった。
防御を忘れ、ひたすら、攻撃を繰り出すふたり。
攻撃で攻撃を防ぐ戦い。
血で血を洗うような、あるいは、肉を切らせて骨を断つかのような激しい攻撃の応酬である。
城が崩壊していく中で、死闘を繰り広げるふたり。
しかし、ほんの僅かな差であった。
なゆたは、この場においても、まだ「殺す」覚悟にまでは至っていなかった。
それに対し、赤い瞳の少女の確かな殺意。
その差である。
少女の攻撃が、なゆたの攻撃よりも僅かながらに勝ったのだ。
なゆたは、突きに押し負け、天高くから地上へと、落下してしまう。
「うぐっ!」
崩落した城の瓦礫の山に、彼女はその身を打ち付ける。
その時である。
「これで終わりですよ!」
瓦礫の山の上に倒れているなゆたに対し、上空から少女は、突きを放ちながら、急降下したのである。
狙いは、なゆたの左胸、ただ一箇所である。
心臓を一突きにしようというのだ。
「く!」
なゆたは、少女の攻撃に合わせ、かろうじて刀を差し出した。
なゆたの顔の目前で、剣先と刀がぶつかりあった瞬間、轟音が鳴り響き、爆風が吹き荒れる。
しかし、少女の繰り出した渾身の一撃は、なゆたの刀に致命的なダメージを与えた。
なんと、その黒い刀身に、ひびが入ってしまったのだ。
少女の攻撃から、かろうじて身を守ったものの、なゆたの日本刀は、もはや長期戦に耐えうる状態にはなくなってしまったのである。
「このまま、殺してあげますから!」
ひびの入った刀身で、なゆたは、少女の突きを押し返そうとする。
一方の少女は、刀を破壊し、そのままなゆたの額を貫こうと、剣先を押し込む。
つばぜり合いが始まった。
「く!」
「ふふふ!」
互いに一歩も引けない命の駆け引きは続く。
押しては押し返される状態が続く。
時間にすれば、わずか五分たらずの時間であったが、まるで時が止まったかのように、なゆたにはその時間があまりにも長く感じられた。
ふたりの力は、まさに拮抗していた。
しかし、徐々に少女に押し込まれてゆくなゆた。
ひびが入り、脆弱となった刀身では、力の全てを伝えきれないのだ。
このままでは、負ける。
ふいに、なゆたは、少女の瞳を見た。
まさに、その瞳は深紅。
「私の目に何が見える?」
「な!?」
あまりにも美しい真紅の瞳。
しかし、その深奥は深い闇が広がっている。
果てしない闇。
見つめ合うふたり。
その顔は、気付けば、数センチの距離にまで近づいていた。
「壊してあげますよ、今すぐに!」
唇と唇は、もはや触れ合う寸前。
「このォッ!」
なゆたは、深い闇を宿した少女の瞳に、吸い込まれかけていたなゆただったが、
少女の言葉で我に返ると、最後のちからを振り絞り、刀をかちあげた。
砕け散る日本刀の刃先。
「く!」
同時に、少女のレイピアはその手から離れ、宙に舞う。
少女が、宙から落下するレイピアを手にし、体制を立て直し、攻撃に移るまでには早くても3秒。
やるなら、今しかない。
刃先が砕け散ろうとも、ひびの入った刀身であろうとも、最後の一撃を放てば、確実に少女を殺すことができる。
「うああああああああッ!」
なゆたは、この戦いに終止符を打つべく、少女めがけ、刀を振り下ろした。
一切の迷い無く。
そして、赤い瞳の少女は、なゆたを見つめたまま、笑みを浮かべた。
「ようやく、終わった…」
噴き出す赤い液体を、全身に浴びながら、彼女は意識を失うのだった。
なゆたは、レイピアを刀ではらいのけると、痛みを堪えながらも立ち上がった。
「ふふふ。ここからは、本気で行きますよ」
風をも切り裂くかのような、鋭い突き。
少女の攻撃は、一層苛烈を極めた。
「どうして!こんなことを!」
「それは、キミを殺す為だけに、私が存在するからですよ!」
「そんな存在、わたしは認めない!」
レイピアでの鋭い突きの連打を、刀で防いでゆく。
歯をくいしばり、彼女はその猛攻に耐え続ける。
一瞬でも気を抜けば、剣先が肉体を貫く事になるだろう。
「守ってばかりでいいのですか?」
少女の言う通りであった。
このまま防戦一方では、押し切られるのは、時間の問題だ。
攻撃に反応しながらの防御は、莫大な集中力を求められるために、攻撃をする側以上に精神力を激しく消耗してしまうのだ。
「やるしかない!」
なゆたは、攻撃に転じる覚悟を決める。
「うおおおっ!」
彼女は、声をあげ、少女に向かって斬りかかったのだ。
しかし、他人を傷つけた事のないなゆたにとって、本気で真剣を振るう事はできず、無意識の内に力を緩めてしまう。
「あら?手加減してる余裕なんてないんじゃないですか?」
少女は、なゆたの攻撃を軽く剣先で弾く。
「本気を出さないと、本当に死んじゃいますよ?」
少女が繰り出した高速の突きは、なゆたの左肩を貫いた。
「痛いですか?私の事が憎いですか?怒りを覚えるでしょう?」
少女がレイピアを抜き取ると、なゆたの肩からは勢いよく鮮血が噴き出した。
「くっ!」
思わず、なゆたは刀を落としてしまった。
「さあ、拾いなさい。その魔性の刀を!そして、私を殺してくださいよ!」
「このッ!」
彼女は、刀を拾うと同時に渾身のちからを込めて、刀を振り下ろした。
そう、生きる為に決意したのだ。
少女を倒さなくてはならない、と。
「やればできるじゃないですか!」
少女は、剣先でなゆたの斬撃を受け止めた。
刀と剣がぶつかり合ったその瞬間、大きな力と力の反発により、衝撃波が発生し、ふたりは後方へと吹き飛んでゆく。
「そう、これが!これこそが、殺し合い!」
地を蹴り、宙を舞い、一瞬にして距離を詰める少女。
少女は、まるで水を得た魚のように、なゆたに対し、激しく攻め込んだ。
高速の突きの連打に対し、彼女も斬撃で応酬する。
力と力がぶつかり合うたびに、爆風が巻き起こる。
床に敷かれた絨毯ごと、地面はえぐられ、城内の壁に亀裂が走る。
そして、衝撃波により、ふたりの体が宙に浮くと、ふたりは空中にありながらも戦いを続ける。
衝撃波が発生するたびに、ふたりの体は、より高く宙に浮き、やがて、天井付近にまで来ると、天井はとうとう崩落を始めた。
戦いは、まさに烈火のごとく、熾烈なものだった。
防御を忘れ、ひたすら、攻撃を繰り出すふたり。
攻撃で攻撃を防ぐ戦い。
血で血を洗うような、あるいは、肉を切らせて骨を断つかのような激しい攻撃の応酬である。
城が崩壊していく中で、死闘を繰り広げるふたり。
しかし、ほんの僅かな差であった。
なゆたは、この場においても、まだ「殺す」覚悟にまでは至っていなかった。
それに対し、赤い瞳の少女の確かな殺意。
その差である。
少女の攻撃が、なゆたの攻撃よりも僅かながらに勝ったのだ。
なゆたは、突きに押し負け、天高くから地上へと、落下してしまう。
「うぐっ!」
崩落した城の瓦礫の山に、彼女はその身を打ち付ける。
その時である。
「これで終わりですよ!」
瓦礫の山の上に倒れているなゆたに対し、上空から少女は、突きを放ちながら、急降下したのである。
狙いは、なゆたの左胸、ただ一箇所である。
心臓を一突きにしようというのだ。
「く!」
なゆたは、少女の攻撃に合わせ、かろうじて刀を差し出した。
なゆたの顔の目前で、剣先と刀がぶつかりあった瞬間、轟音が鳴り響き、爆風が吹き荒れる。
しかし、少女の繰り出した渾身の一撃は、なゆたの刀に致命的なダメージを与えた。
なんと、その黒い刀身に、ひびが入ってしまったのだ。
少女の攻撃から、かろうじて身を守ったものの、なゆたの日本刀は、もはや長期戦に耐えうる状態にはなくなってしまったのである。
「このまま、殺してあげますから!」
ひびの入った刀身で、なゆたは、少女の突きを押し返そうとする。
一方の少女は、刀を破壊し、そのままなゆたの額を貫こうと、剣先を押し込む。
つばぜり合いが始まった。
「く!」
「ふふふ!」
互いに一歩も引けない命の駆け引きは続く。
押しては押し返される状態が続く。
時間にすれば、わずか五分たらずの時間であったが、まるで時が止まったかのように、なゆたにはその時間があまりにも長く感じられた。
ふたりの力は、まさに拮抗していた。
しかし、徐々に少女に押し込まれてゆくなゆた。
ひびが入り、脆弱となった刀身では、力の全てを伝えきれないのだ。
このままでは、負ける。
ふいに、なゆたは、少女の瞳を見た。
まさに、その瞳は深紅。
「私の目に何が見える?」
「な!?」
あまりにも美しい真紅の瞳。
しかし、その深奥は深い闇が広がっている。
果てしない闇。
見つめ合うふたり。
その顔は、気付けば、数センチの距離にまで近づいていた。
「壊してあげますよ、今すぐに!」
唇と唇は、もはや触れ合う寸前。
「このォッ!」
なゆたは、深い闇を宿した少女の瞳に、吸い込まれかけていたなゆただったが、
少女の言葉で我に返ると、最後のちからを振り絞り、刀をかちあげた。
砕け散る日本刀の刃先。
「く!」
同時に、少女のレイピアはその手から離れ、宙に舞う。
少女が、宙から落下するレイピアを手にし、体制を立て直し、攻撃に移るまでには早くても3秒。
やるなら、今しかない。
刃先が砕け散ろうとも、ひびの入った刀身であろうとも、最後の一撃を放てば、確実に少女を殺すことができる。
「うああああああああッ!」
なゆたは、この戦いに終止符を打つべく、少女めがけ、刀を振り下ろした。
一切の迷い無く。
そして、赤い瞳の少女は、なゆたを見つめたまま、笑みを浮かべた。
「ようやく、終わった…」
噴き出す赤い液体を、全身に浴びながら、彼女は意識を失うのだった。