寵愛の姫 Ⅰ
距離感
「…また来てたのか。」
呆れたように呟く天野さんへと私は視線を向ける。
「……今晩は。」
「……あぁ……。」
小さく頭を下げた私に天野さんは肩を落とした。
そして、苦笑いを浮かべる。
あれっきり、もう会う事はないと思ってた天野さん。
でも、違って。
私がこうしていつもの定位置で座って人の波を見つめていれば、天野さんはどこからともなく現れた。
それを不思議に思っていても、聞く事はしない。
後で自分が困るから。
天野さんと、私の距離感は近いようで遠い。