Dilemma
「…どういう…」

「まだわかんねぇのか?」

驚きで言葉にならない、という様子の愛梨に志暢は淡々と説明する。


「つまり昨日のあの騒動も、理事長が全て仕組んだこと。それも、私達がこの改生労働会とやらを結成するのに相応しいか判断する為に。」

「そう、罰則としてこの部屋の掃除を命じられたのも、新しくここを改生労働会の部室にする為ってことや。」


「そうじゃなくて…!理事長は…全部知ってるってこと?…私達の過去、全部…」

愛梨の声はだんだんと小さくなっていき、そして完全に聞こえなくなった。

そんな愛梨に志暢は優しく声をかける。

「言ったろ、この学園は普通は転校生なんて受け付けないって。なのに私達は転校してきた。」

「…………………」

「全ては己がした罪の贖罪。…私達は罪を償う為にこの学園に呼ばれたんだ。」

「……………………」

「あははっ改めて生きる会…それが改生労働会。…よく出来た話やな。」

「…何で笑っていられるの?」

ようやく口を開いた愛梨を、棗は鋭く見つめる。

「…全部…消し去りたい過去、全部知られてるっていうのに…あなたにだってあるんでしょ?誰にも知られたくない過去が…」

棗は今まで見たことのないような顔で、真っ直ぐに愛梨を見下ろした。

「罪から逃げて何になる?」

「……………」

「何もかも投げ捨てて、何になると言うんや。それで自分が犯した罪は消えるんか?」

「…私は……」
「罪を償うとはそういうこと。」

「…棗」

ぽんっと志暢に肩を叩かれる。

「理事長は優しいお人や。…こんな社会のゴミみたいなウチらを受け入れて、改生させようとしてくれるねんから。」


「…そうだな」

志暢はすっかり日が落ちて、暗くなった夜の星空を見つめながら言った。
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