麗雪神話~幻の水辺の告白~
「…わかってる! こっちもだ!」

霧の出現自体には慣れたもので、セレイアは槍を構え、ディセルは両腕を突きだして霧を形にする。

凝縮した霧の中から姿を現したのは、ぶんぶんと羽音のうるさいハエの霧虫であった。

大きさは、セレイアの顔と同じくらい。

小ぶりなサイズだ。

セレイアもディセルも、この霧虫自体は問題視していなかった。それよりも気になるのは、この霧を操るヴェインが姿を現すかどうかだ。

もし彼がやってくるなら、こんな機会は滅多にない。たとえ二人でも、なんとしても奴のとどめを刺さなければならない。

セレイアは慣れた動作で霧虫の体当たりを右に左にかわすと、狙いを定めて槍を一突きした。

見事、霧虫の体は槍で串刺しになった。

そのまま霧虫は霧散し、跡形もなくなる。

セレイアとディセルは構えを解かず、緊張の面持ちでヴェインの登場を待ったが、しばらくたっても彼は現れなかった。

…どうやら今回は、姿を現すつもりがないらしい。

前回の戦いで少しは懲りたということだろうか?

「今回は来ないみたいね…」

呟き、セレイアがディセルに何気なく視線を送ると、ディセルは何かに驚いたような表情をしながら硬直していた。

そのまま頭を抱え、ふらりとその場に膝をつく。
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