Pallet
教室から覗いた空はほの暗く、遠くから僅かに雷の音が聞こえてきた。

「雨が降りそうだな」

プリントを纏め終わり、足早に帰って行った鮎川。
一人残された教室で、そう呟いた。

さっきまでの温かかった空間が、嘘のように寒々しい。
伝えられない、報われない想いだけが心の中で渦巻いている。

年の差がなんだ。
立場がなんだ。

苦しい。
偽るこの気持ちが、クルシイ。

嗚呼、この想いを伝えられたらどれほど楽になれるだろうか。

そう、たとえ結ばれなかったとしても……。

耳に入り込む、二度三度の窓をノックするような音。
目を向けると、大粒の雨粒が窓にぶつかっていた。

「降ってき……」

その次の瞬間には、言葉を掻き消すほどの激しい雨音。
そして、耳をつんざくような雷鳴。

脳裏に浮かんだのは、ついさっき帰った鮎川のことだった。

窓から外を見る。
降り注ぐ雨で視界の悪くなった景色。

これじゃあ、傘なんて意味がない。

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