彼を愛してはいけない理由。
家に帰るとすぐに父さんのところに行った。
「父さん、小野寺の若頭がいつもの廃工場に向かっているらしいです」
父さんは浴衣の襟を直しながら笑った。
そして、湯のみに入ったお茶を一口飲んで言った。
「噂だと、お前を探してるらしいぞ」
「私、ですか?」
「ああ」
何で、私?
若頭とは会ったことなんてないし、直接何かをした覚えはない。
「俺のことを恨んでるらしいから、娘を殺すんだとよ」
「私を殺す?できるわけないじゃないですか」
「さぁ、どうだろうな。小野寺の息子はかなりできるやつだからな。お前と同じか・・・それ以上」
父さんは表情を変えた。
さっきまでは楽しそうにしていたが、突然、真面目な顔になった。
私よりも?
それじゃぁ、私は、死ぬの?
ありえない。
私は父さんの目を見て言った。
「父さん、小野寺の若頭を
殺してもいいですか?」