ツレない彼の愛し方【番外編追加】

式が終わって二人きり。ホテルのスィートルーム。
夜は家族だけの会食が予定されている。
産後、仕事と育児でなかなか里帰りできない私に両親との時間を作ってくれた早瀬だったのだが、その思いとは違った方向で事が進んでいる。

『嫁に行った娘より、初孫と一緒にいたい』

と言って桜だけを連れて自分たちの部屋に籠っているようだ。
その部屋には早瀬のご両親も一緒に。


「なんか…桜がいないと物足りないね」


「ま、そうだな」

ホテルのスィートルームなんて泊まったことがない私にとって、このだだっ広い空間が落ち着ける訳もなくもうすぐ夕焼けに染まった海を一望できる窓から外ばかりを眺めていた。


「洋太、お腹空いてないかな?おむつ大丈夫かな?泣いてないかな?」


「お前のお母さんも、うちのお袋もお前よりベテランだぞ。心配ない…それより…」

と、早瀬が私の肩をそっと抱き寄せ、耳を甘噛みする。
そのまま首すじに顔を埋めてツーッと舌を這わせた。


「あっ…ン…ちょっと…」


「せっかく二人きりにしてくれたんだ。そう言う時間じゃないのか?」

そう言いながら、早瀬がゆっくりとニットの裾から手を入れ、脇腹から背中へと素肌を撫でる。
それだけでも甘美な夢の中へ誘(いざな)われてしまい、足の力が抜けて、そばにあるソファになだれ込んでしまった。
その弾みで早瀬が私の上に覆い被さる。
「フッ」と笑った早瀬はそっと髪の毛を撫でて私をみつめる黒い瞳がゆらゆらと揺れていた。


「響…愛してる」

このタイミングで放つ言葉に胸がギュッと締め付けられるほど愛しい思いでいっぱいになった。


「隆ちゃん…私も…大好き」


「ああ、わかってる」

その言葉の余韻が残ったまま、そっと唇が重ねられた。
深く長く吐息が漏れるキス…
本当に愛おしい。


と、その時、甘い時間を壊すように部屋のインターフォンが鳴った。


「チッ!タイミングが悪い!」



悪態をついた早瀬は誰かが訪ねて来ることがわかっていたように素早く私の上から離れ、ドアまで歩いて行った。







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