tear/skill
コンコンとノックの音がしてはっとした
「君さ悠真と話してた子だよね
彼氏ほっといてよくやるよ」
さっきのお医者さん
「彼氏じゃない」
「友達?」
「そんなとこ」
医師はカルテに色々書き込みながら処置を施していく
私は何故かこの医師が苦手で後ずさりながらドアまで行こうとした
「なんで逃げてるの?」
「逃げてない」
ドアに背中があたる
医師の伸ばした手は口を押さえた
薄れゆく意識の中で私は何故か悠真の名前を呼んだ
目覚めた時、私はひどく暗く寒いところにいた
霊安室、考えれるのはそこしかない
「やあお目覚めかい?」
近づく足音
体に力が入らない
悠真、助けて
ぎゅっと目を瞑った
「悠真」
ぎゃっと言う悲鳴のようなヒキガエルが潰れた時のような声がした
「いい眺め」
見れば確かにそうだけど
「悠真」
「悪いな遅くなった」
とびつきたいけど体に力が入らない
ゆらりと立ちあがる 人影が悠真を蹴りつけた
「悠真」
なんでこんなときにこうなるかな
かっこ悪ぃ
「えっ···」
立ちあがろうにも足を怪我している悠真には不利
「怪我さえしてなければかっこいいナイトだったのに残念だね」
私は動かせない体で悠真が蹴られ続けるのを見ていた
悠真が動かなくなるまで蹴り続け私を見る
「悠真」
「残念だね」
「死んじゃったの?」
私は恐る恐る訊いた
「さあ?」
「悠真」
「何度も呼ぶんじゃねぇよ···聞こえてるっての」
綺麗すぎる回し蹴り
医師は完全にのびてしまっている
でも···
「···」
「平気だから気にすんな」
悠真の足···
しばらくして動けるようにはなったが悠真は相変わらず壁を背に座っていた
「ごめんごめんごめん」
「はあ?」
「謝りたいのすごく」
「悪い」
悠真は口元を手で押さえた
押さえた手の隙間から血が溢れる
「悠真」
私は無我夢中で事情を説明して医者に頼み込んだ
理解してもらえなくてもいい
悠真ガイナクナラナケレバ
懸命な処置のおかげで一命は取り留めたけどしばらくは面会謝絶
悠真に会いたくても会えない
今日は色々ありすぎた
帰って寝よう
病院の前にタクシーを呼んでそのまま帰った
私の家は築25年のボロアパートだ
帰っても誰もいない
留守電はうるさいから聞かない
でも今日は違った
何故か聞かなくてはならない気がした
病院からとあいつのことでの電話
賠償金···そんなのいらない
部屋の隅、うずくまる
悠真の声がききたい
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