独りの世界に囚われた女性の場合
 そこには、今の私には、眩しすぎるほどの笑顔の私とあの人。
 落ちたそれを拾い上げるのに、少しの恐怖と戸惑いを覚えたが、
 私はそれをそっと拾い上げ、机の上に伏せて、置いた。
 様々な感情が胸を締め付ける。失ったと思っていた。いや、思いたかった思いが、幾つも込み上げてくる。
 幾つも、幾つもの。
 あの時の思い出が。

 海に行ったり。
 星空を二人きりで眺めたり。
 同棲すると決めたとき。
 お揃いのマグカップを買ったとき。
 あまり豊かとはいえなかったけど、楽しかった日々が。
 彼の温もり、
 彼の笑顔、


 そして、私の笑顔。

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