空っぽのイヤホン(仮)
「元気?」なんて聞くから、ちょっと笑ってしまう。
私倒れたんだけどね?

「元気だよ。今、学校たのしい。」

そう、と嬉しそうな顔をする愛子先生がいつもの数倍大人に見えた。

「何時?」と聞くと
愛子先生は細い手首に巻きつくシンプルな腕時計を見る。

「もうすぐ12時30分。」

「え、お昼休みじゃん。」

行かなきゃ、とベッドから出た私の手首を
愛子先生が突然引き止めた。

振り返ると、愛子先生は泣きそうな顔で
私を見つめている。

「…元気?」

うさぎみたいな丸い瞳が、心配そうに揺れている。

一瞬ドクッと鳴った鼓動が、やけに重い。

に、と口角を上げて笑顔を作った。

「うん、元気だよ。」
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