キスより甘くささやいて
夕方は海に降りる階段でゆっくり過ごす。
波の音が颯太の声を運んでくる。
目を閉じると、
「美咲、愛してる」と囁く声が何度も何度も繰り返しやって来る。
私は幸福な気持ちに包まれる。
ひとりでもちゃんと生きていける。そう感じた。
夕方暗くなると、山猫を訪れる。
いつも変わらない様子で迎えてくれる、シルビアママと哲也君は私の大切な友人達だ。
近況報告をしあったり、
最近流行りの服や、美容について、
講義を受けつつ、お酒を飲む。酔っ払い過ぎると、ママは2階に泊めてくれる。
そして、毎回紫のラメのスウェットを貸してくれる。
もう、私の下着も用意されている。
(ド派手なショッキングピンクで乳首が透けて見えるヤツですけど、)
ありがたく借りて、ソファーベッドで横になる。
波の音をが繰り返し、颯太の記憶を運んでくるので、
時々寂しくなって、布団をかぶって、泣くけれど、
翌日には元気に海辺の散歩にでかけられている。
家に戻ると借りてたスウェットと、下着を洗濯して、
翌日、帰る時に山猫に寄って、私がお昼ご飯を作って、一緒に食べてるっていうのが、
最近のパターンだ。

穏やかな日々。
仕事と、海と、山猫。
それだけあれば、きっと、大丈夫。
私は自分に言い聞かせ、
東京に借りている2DKのマンションに戻って行った
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