キスより甘くささやいて

戻って来た訳

今日は月曜日。
明日から私はgâteauでアルバイトの予定だ。
飲食店って定休日が月曜日だから、火曜日始まりなんだね。
早朝。
すっかり、習慣になってしまった、
砂浜に降りる階段の途中で座っていると、
ふと、思いつく。
この季節は砂浜で桜貝が拾えたっけ。
ゆっくり立って(相変わらず寝不足なので、また、貧血おこさないように)、
波打ち際に近づく。
目を凝らすが貝は見つからない。
ふらふらと波打ち際を移動すると、後ろから腕を掴まれる。
振り返ると、眉間に深いシワを寄せた颯太。

「おまえ、なにしてる!
海にこのまま入ろうって訳じゃないだろうな!」と低い声が怖い。
「?」なに?
キョトンと見つめ返すと、
颯太は深い溜息をついて、赤くなってうつむく。
「いや、悪い。
毎日毎日、海を見てボンヤリしてたから、
ついに、自殺する決心がついちゃったんじゃないかって思っちゃって…」
「はあ?
眠れないから時間を潰しに来てるだけだし、
こんなに明るい時間に入水自殺なんて、誰もしないでしょう!」
と言ってる途中で、ザップンと大きな波に膝下まで飲み込まれた。

「あ〜〜!!」と2人とも大きな声が出る。
「私のお気に入りのデニムが…」
「オレなんか、ランニングシューズ、おろしたてだぞ!」
と顔を見合わせ、思わずおかしくなって、ふたりで笑いあう。
気がすむまで笑って、お互い家に戻る事にした。
まあ、当然か。


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