キスより甘くささやいて
私は、息を切らしながら、家にたどり着き、
洗面所にいた父を押しのけ、
奥にある浴室に飛び込んでシャワーを浴びた。
バスタオルを巻いた姿で髪にドライヤーをかけていると、母が、やって来る。
「出かける!」
とドライヤーを止めずに大声を出すと、
笑って、何か言っている。
なに?とドライヤーを止めると、
「出かける気力がやっと出たのね。良い傾向。」
と言って、キッチンに戻って行った。
私は、ちょっと恥ずかしくなって、
「散歩に行くの」
と呟いてから、ドライヤーのスイッチを入れた。
軽く化粧を済ませて、2階に駆け上がる。
裕樹が、騒がしいなとブツブツ言う。
今週から、新人研修で、都内に行くって言ってた。
スーツ姿が似合ってないな。とちょっと笑える。

ピンポンとチャイムが鳴る。
ジャスト30分。まだ、服を着てないんですけど。
母が、ドアを開けた気配がする。
こんなに朝早く、訪ねてくるのは非常識じゃないのか?って言う疑問は置いといて、
「おはようございます。行ってらっしゃい。」
と爽やかな声で、挨拶するのは颯太の声だ。
きっと、父が出かけるところだったよね。
「おじゃまします。」
となんで家にあがってるんだ?
「裕樹くん、もう、出かけるの?」
と話してる。もう、なんで外で待ってないかな。
いや、近所の人達に見られても困るか…と考えながら、着替えていると、
「美咲、やっぱり、付き合ってんじゃんか。」と裕樹が笑った声で部屋の前を通る。
「ちがうってば!」
と言ってもちっとも説得力がなさそうだ。
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