キスより甘くささやいて
第3章 ヤキモチ記念日

BAR山猫

翌日から、gâteauでアルバイトを始めた。
颯太は毎日迎えに来て、送ってくれる。
うーむ、甘やかしすぎじゃないんですか?
外国産のエンブレムがついている車の中はゆったりしていて、
静かにクラシック音楽が流れている。
車の中の颯太は、あまり喋らない。
のんびりと私に笑いかける。
でも、gâteauに着くと彼は纏う(まとう)空気が変わる。
ぐうっと集中して、人気急上昇中のパティシエになるのだ。

gâteauでの仕事は午前中、息を吐く暇がないくらい忙しい。
颯太は眼鏡の奥の瞳に力を入れ、
時折眉間にしわをよせながら、
バリエーションのあるスポンジを焼き、
前日に用意しておいたムースや、ゼリーにデコレーションをし、
バターをたっぷり使った焼き菓子をまた焼き上げる。
冷めたスポンジにクリームや果物やチョコレートを飾りつける。
出来上がったお菓子は私が磨き上げたショーケースに収めたり、
オーナーが運転する冷蔵車で、
契約している小さなホテルのティールームや、鎌倉駅近くのコーヒーショップに配達されてゆく。
(オーナーは10時頃に出勤してくる。他のティールームに勤める2人は10時半に出勤だ。)


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