キスより甘くささやいて
病院の出入り口まで、颯太は送ってくれる。
少し疲れた顔だ。
私は自動販売機の前で足を止め、颯太を見上げ、
「コーヒー奢ってあげる。」
と笑いかけると、頷いて、自販機の横の椅子に腰かけた。

「颯太。」
と私は目の前に立って、彼を見下ろす。
「ガールフレンドとして言っておく。
ひとりで頑張り過ぎないように。」
と言って、彼の頭におでこをつける。
すると、彼は、ゆっくり、肩を揺らして嗚咽しながら、私の身体を抱きしめた。
やっぱり、ひとりでいろいろ抱えて、辛かったんだな。
と少し悲しくなる。

彼は次第に泣き止んで、私の身体を抱きしめたまま、
「美咲、俺をどーしたいんだよ。
ますます好きになっちゃうじゃん」と笑う。
「そりゃあ、困ったな。お手柔らかにお願いします。」
とわたしも笑って答えた。
そして、缶コーヒーを並んで飲みながら、
お母さんの病状について颯太はポツポツと話し始める。
やっぱり、今後は厳しい状況になりそうだ。
「話すだけでも、気持ちの整理が少し出来るかもしれないよ。」と見上げると
「そううだね。楽になった。」と笑う。
「ボーイフレンドが悲しいと、私も悲しくなる。
ちゃんと話してください。」と言うと、
「また、よろしくお願いします。」と颯太はにっこりした。

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