キスより甘くささやいて

悲しい日々

gâteauに電話が入って、颯太は病院に向かう。
お母さんの容態が急に悪くなったのだ。
ここ数日、お母さんは目を覚まさなくなってきていたので、
夏希ちゃんが付き添っていた。
理解していても、感情は別だ。
颯太は動揺して、立ちすくむ。
私は手を握り、声をかける、
「後で、行くから、夏希ちゃんが待ってる。」と顔を見ると
やっと、ゆっくり動き出した。オーナーが
「店のことは気にしないで。」と声をかける。
颯太は頷いて、店を後にする。


颯太のお母さんは夜遅くに息を引き取った。
静かな最後だった。
眠るように、苦しまずに亡くなったことだけが、
残された者たちを少しほっとさせた。
颯太は涙を見せずに、手続きや、葬儀の準備をした。
私は親戚の人達がやってくる前に颯太のお母さんに最後のお別れをした。
涙がたくさん頬を伝う。
嗚咽する私を颯太はしっかり抱きしめ、
「美咲、今まで、かあさんと仲良くしてくれてありがとう」と言って、
颯太は、やっと涙を流すことができたみたいだった。
しばらく抱き合った後、颯太は笑顔を見せ、
「最期に、かあさんにできることをしなくちゃね。」
と気を取り直して、たくさんのやらなければならない事に向かっていった。

gâteauは店内改装のため、とホームページでお知らせをし、
颯太が出勤できない間、10日ほど休みになった。
その間に、業者さんによる、厨房の本格的なクリーニングと、
ティールームの模様替えが行われた。
壁紙や、椅子の座面を深い緑に金色が所々に混ざっている、モノに変えた。
結構シックだ。
オーナーは
「今年の夏は利益が出たからね。ちょっとだけ、気分転換だよ」と笑う。
もちろん、私達にも少し、ボーナスが出た。

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