キスより甘くささやいて
急にポッカリ休みになってしまっても、
私は何をしたらいいかわからない。
颯太の家は親戚の人や、お客様が、出たり入ったりしているので、
顔を出すのがためらわれる。
私は、また、早朝に砂浜につながる階段にボンヤリ座る。
波の音を聞きながら、水平線を眺めていると、
「また、やる気のない格好で、ボンヤリしてるな」と急に声がかかる。
振り向くと笑った颯太がいた。
今日は白いボタンダウンのシャツにジーンズだ。
私の一段上に座り、後ろから私を包むように抱きしめ、
「美咲に会いたくて、触りたくて、ここにいるかなと思って来てみた。」
と私の頬を指でそっと撫でる。
「私も会いたかったですよ、」と言うと、にっこりして、
「美咲がすごく欲しいんですけど、
イロイロ片ずけなきゃならない事がある。
今、美咲を抱いても、寂しさを埋めたいだけって思われても、困るから、
もう少し、我慢する事にする。」
いや、まあ、私はそれでも、かまわないと思うんだけど、
結構真面目な人だ。
颯太は私を振り向かせ、
Tシャツの首を引っ張り、また鎖骨の上にキスマークを付ける。
「予約の延長の申請。」と笑う。

周りの事は気にしないで颯太はくちづけをしてくる。
深く思いを込めて。
言葉にしていなくても、愛してると言っているのがわかる。
私も颯太の背中に腕を回し、力を込める。
私の愛してる。が届くように思いを込めて。

お互いゆっくりと唇を離す。
なんだか照れくさい。颯太は
「家まで送る。」
と言って、私の手を引いて立ち上がらせ、指を絡めて、歩き出す。

私達は恋人どうしだ。
ゆっくりと、住宅街に続く階段を上っていきながら、そう思った。
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