Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 この日、みのりは研修用のダークグレーのスーツに身を包み、きりっと引き締まった表情で体育館へと向かった。
 体育館には、大勢の中学生がすでに集まっている。みのりたち高校の教員が体育館に入ってくると、低いざわめきが収まりシーンと静まり返った。

 年に一度、これからの数日間は、次年度の入学者選抜の学力検査いわゆる高校入試が行われ、学校が独特の緊張感に包まれる。


 地域の名門芳野高校は、この学区内の中学生がまず目指す高校で、中学生たちはここに入学するために一生懸命勉強をしてきたはずだ。受験する者も真剣なら、高校の職員の方も、守秘義務が伴い失敗が許されない作業の続く緊張する三日間だった。


 みのりは受験番号と教室番号の書かれたプラカードを持って、生徒たちの列の前に立った。これから生徒たちを教室まで誘導する。いろんな中学校から来たさまざまな制服を着た生徒たちが、神妙な顔つきでみのりの後から付いてくる。生徒への支持は一括して放送によってなされるので、みのりの仕事は、確実に生徒を試験会場へと入れること。隣の教室の誘導係と確認し合って、ひとまず一仕事が終わってホッとした。


 数日前の麗らかさとは打って変わって、この日はどんよりと曇ってうすら寒かった。階段の降り口の連絡係の待機する場所には、ストーブが設置されて、オレンジ色の暖かい光を放っていた。



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