Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 穏やかな空気の中に、一滴のざわめきが落とされる。
 まだ新生活に不慣れで初々しい1年生たちを押し退けて、一人の男子が廊下を一心不乱に走ってくる。


「みのりちゃん!」


 突然、女の子に大声で呼ばれて、みのりは声のした方を確かめた。思った通り二俣の妹の愛が、廊下の向こう側から、血相を変えてこちらへと向かっていた。


「みのりちゃん!…そいつ!!そいつを捕まえてっ!!!」


 『そいつ』というのは、今まさにこちらへと走ってきている男子のことだろうと、みのりはとっさに判断し、反射的に両手を広げて立ちはだかった。

 走る男子は、突然目の前に現れた障害物に対して目を剥いたが、避けることも止まることもできなかった。


「わわわ……っ!!」


 みのりが声を上げるのと同時に、勢い余った男子は、みのりの方へ突っ込んでくる。

 例によってドンくさいみのりは、これに対応できずに、バランスを崩して後ろにひっくり返った。さらに、巻き添えをくったその男子が一緒になって倒れ、みのりは大きな体の下敷きになった。あまりの痛さと苦しさに、みのりは声も上げられない。


「みのりちゃん!ナイスタックルー!!…って、あんた、みのりちゃんを潰しちゃってるじゃないの!!」


と、愛が言っている側から、その男子は立ち上がり、再び逃げ出そうとする。すかさず、愛がその腕を捕まえると、その男子も観念したように大人しくなった。


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