Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 でも、家庭訪問は担任として果たさねばならない大事な仕事だ。みのりと遼太郎の間にあったことも、ましてや蓮見のことも、今日の家庭訪問には関係のないことだ。
 私情を介在させて、本来の目的を見失ってはならない…。

 みのりは大きく長く一つ息を吐く。それがため息にならないように、自分の中の雑念を息と一緒に吐き出した。 


 夏休みなので、勤務時間の合間に家庭訪問をすることも可能なのだが、俊次の母親も働いており、帰宅するのは夕方になるというので、みのりはその時間に合わせて、俊次の家に赴いた。


 県道沿いのコンビニから脇道に入ってしばらく行くと…、かつて知っている遼太郎の家がある。

 庭先の空き地に車を停めて玄関に向かうと、車が2台入るカーポートには、母親のものと思われる軽自動車が停められていた。

 その脇に置かれている自転車に目が留まり、その瞬間、みのりの鳩尾がキュッと何かに掴まれた。

 春の柔らかい西日の中で、橋を渡り遠ざかっていく自転車……。

 それはまさしく、あの“別れの場”に立ち会っていた、遼太郎の自転車だった。


 みのりは玄関前で立ちすくみ、乱れた動悸を落ち着けるように胸の前で両手を握った。

 ここは、遼太郎の家だ。こんな些細なものの一つ一つに“遼太郎”を見つけだしていたら、ここには居られなくなり、家庭訪問どころではなくなってしまう。


< 450 / 775 >

この作品をシェア

pagetop