Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 みのりの中に〝遼太郎〟という存在がなければ、自然な流れに身を任せても、そこから蓮見に対する特別な想いを育てていけるのかもしれない。

 だけど、遼太郎と一緒に過ごしたたったひと月の出来事を、まだこんなにも鮮明に思い出せる。心に刻み付けた遼太郎の優しい笑顔と眼差し、『好きです』という囁きは、みのりがこうやって息をして生きていくための源のようなものだ。
 みのりの心の中に住む〝ただ一人の人〟は、やはり遼太郎だけだった。


 蓮見のことは〝いい人〟だとは思うけれど、ただそれだけだ。本当にいい人だからこそ、傷つけることには罪悪感が伴う。

 ……いや、傷つけるのを承知ではっきりと断っても、蓮見は諦めてくれるだろうか……。
 「他の人は考えられない」「何年でも待つ」。蓮見はそう言っていた。みのりが中途半端な独身でいる限り、きっと蓮見は待ち続けるだろう。

 このままでは……、蓮見の人生を犠牲にして、台無しにしてしまう……。


 いずれにしてもみのりは、昨日までよりもさらに深い悩みを抱えることになってしまい、そして、いよいよ今日は、俊次の家へ行かねばならない。

 昨日は蓮見が登場してから、幸か不幸かこの家庭訪問のことは忘れていられたが、今日は蓮見のことと相乗して、みのりに重くのしかかってくる。


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