Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
そんな遼太郎の態度に、陽菜もただならぬものを感じ取って、脳天気な言葉を慎んだ。前を歩く遼太郎の背中を追って、陽菜も黙々と歩き続ける。
急いだこともあって、地下鉄の駅にはすぐに着いた。そこが、陽菜が帰るために便利な駅かどうかなんて、遼太郎には考える余裕はなかった。
「それじゃ……。」
遼太郎は短くそう言って、陽菜が改札の向こうへ消えていくのを待った。
遼太郎が急に不機嫌になった意味が分からないまま、陽菜は恐る恐る声をかけてみる。
「明日、ゼミのミーティングがありますけど、狩野さんは行きますか……?」
「……うん、行くつもりだけど。」
その答えを聞いて、陽菜はいつものように輝くような笑顔を見せた。でも、遼太郎は、それをまぶしがるどころか、煩わしそうにもっとその表情を曇らせた。その遼太郎の態度に、陽菜はまるで追い立てられるように、改札の方へと足を動かすしかなかった。
改札を抜けて、名残惜しそうに陽菜が振り返る。しかし、そこにはもう遼太郎の姿はなかった。
踵を返して駅から駆け出た遼太郎は、すぐさまポケットからスマホを取り出して、みのりへと電話を掛けた。
五回、十回とコールを繰り返す。店の前で別れてから、あまり時間も経っていないので、よほど近い場所で〝友達〟と待ち合わせをしていない限り、まだみのりは一人でいるはずだった。