Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
「狩野さん?あの、駅はあっちですけど、まだ先生に用があるんですか?」
そのとき突然呼び止められて、遼太郎が振り返ると、陽菜が後を追って付いて来ていた。
このままでは、きっと陽菜は自分と一緒に、どこまででも付いて来る。この陽菜が側にいる限り、先ほどのように無為な会話が続くばかりで、みのりとは肝心な話はできはしない。
かと言って、強い言葉で陽菜を追い返すこともできず、みのりも見失ってしまった。遼太郎は、ため息をついて踵を返した。とにかく陽菜をサッサと駅に送っていって、帰らせることが先決だった。
それからでも、みのりが友達に会うまでに、まだ時間はあるかもしれない。
黙って最寄りの駅までの道を急ぐ遼太郎に、陽菜が声をかけてくる。
「狩野さんの先生、とっても素敵な人でしたね。あんなに綺麗な人、私の身近にはいないから、ビックリしちゃいました。」
――……当たり前だ。俺の好きな人なんだから。
遼太郎は心の中でつぶやいた。遼太郎にとってのみのりは、もちろんこの陽菜を含めて、その辺にいる人間とは存在意義が違う。
けれども、遼太郎はそれを口に出しては言わなかった。
みのりのことをきちんと説明したら、陽菜はまとわりついてこなくなるかもしれないけれど、今はその時間さえも惜しい。陽菜の言葉に対して相づちも打たず、遼太郎は速足で歩き続ける。