Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 みのりは気力を振り絞って、歩き始めた。涙はまだ止められなかったけれども、荷物を預けているコインロッカーのある駅の方へと、とにかく歩き続けた。


 ひたすらに歩いていると、みのりの頭の中に、この現実を合理化する思考が漂ってくる。

 みのりの望んだ通りに遼太郎は成長し、正しい判断のできる人間になっただけのことだ。
 世代も境遇も違いすぎる自分といるよりも、遼太郎にとって近い存在で、ずっとそばにいられる陽菜と生きていった方が、ずっと幸せになれる。

 なによりも、陽菜はあんなに一途に遼太郎のことを想っているし、あんなにも明るく可愛くて賢い子だった。あの陽菜ならば、きっと遼太郎を幸せにしてくれる。


 だから、これでよかったのだと思う。こうやって遼太郎に会えて、遼太郎の現在(いま)を知ることができて本当によかったと、みのりは思った。
 遼太郎への想いは消えることはないと思うけれど、中途半端なままずっと引きずることはなくなった。『あの時、会いに行っていれば……』と、後悔だけはしなくて済む。


 そして、どこにも踏み出せず立ち止まったままの今の状態から、一歩踏み出すことができるかもしれない。

 東京から帰って、いつもと変わらない生活が再び戻ってきたとき、ちゃんと前を向いて生きていけるように……。
 この想いは、この東京という大きな街に紛れさせて、置いて帰ろうとみのりは思った。




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