ぼくのことだけ見てなよ
「あれ、椿姫ちゃん寝ちゃってんの?」
「あ、うん。なんか疲れちゃったみたいで、すぐに寝ちゃったの」
「そっか」

寝たフリをしてすぐ、松井の声がした。美島の声は聞こえなかったけど、きっといたはず。那津は、わたしに合わせてくれたのか、すぐさま寝たことにしといてくれた。

でも今はいいかもしれないけど、空港に着いたら、起きなきゃいけないし…。そうなると、イヤでも顔を合わせるかもしれないわけで…。

まぁ、仕方ないか。いつまでも逃げるワケにいかないんだし…。とりあえず今は、寝たフリを続けよう。



「椿姫…」

空港に着いてすぐ、美島に声をかけられた。でも、やっぱり今は話したくなくて、目を逸らした。

「少し、話せない?」
「もう、時間ないから」
「じゃあ、着いてからでいいから」
「淳平のごはん作らなきゃいけないから」
「………」
「ゴメン、美島…。やっぱりわたし美島とは、」
「それ以上言わないで。言わないでよ…。椿姫と話がしたい」

ねぇ、わたしはどうするべきなのかな。付き合えないとも言わせてもらえないなんて…。

「ぼく、本気で椿姫が好きなんだ。椿姫しか考えられない。孝宏のことは、謝るよ…。サイテーなんて言って、ゴメン…。でもそれくらい、椿姫が好きだから。それだけは、わかって…?」
「美島……」

こんなに想ってくれてるんだ…。あの人とはチガウ。美島は、そんなヤツじゃないと思う。でも……。

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