ぼくのことだけ見てなよ
「楓、もうわたし帰らないと…」
「うん。でも、あともうちょっとだけ」
「……もうこれで何度目?」
「んー、3度目?」
「5度目です!」

もう服に着替えたから、楓の家族が帰ってきても問題はないのだけれど、楓がわたしの傍から離れず、ずっと抱きしめた状態でいる。

しかも、もう同じセリフを5回も繰り返しているのに、楓はわたしから離れようとしない。

「美島って呼ぶよ?」
「それはヤダ」
「じゃあ、離して」
「それもヤダ」
「あー、もう!わたしだって、ごはん支度があるの!」
「わかってるよ、そんなことくらい」
「じゃあ、解放して」
「んー、じゃあ。キスの、おねだりして?」
「はぁ?」

ここにきて、なにを言い出すのよ。なんでまた、そんなこと言わなきゃいけないのよ!

「ほら、早く帰りたいんでしょ?」
「帰りたい、けど……」
「おねだりの仕方、教えたよね?」
「……っ、」

色気!そのムダな色気をしまえー!もう、その色気だけで、わたしのココロはドキドキしっ放しなんだから!

「ただいまー」

そんな時だ。咲希ちゃんの声が聞こえて、リビングのドアがガチャリと開いた。

「あ」
「あ」

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