あの日のきみを今も憶えている
「ふうん、霊感なし、かあ。それが一番有力かなあって思ってたんだけどなあ」


はあ、と美月ちゃんはため息をついた。


「もしそうなら、あたしにこれからのアドバイスをくれるかも! とか期待してもいたんだよね。上手く行かないなあ」

「これからの、アドバイス?」


訊くと、美月ちゃんはこくんと頷いた。


「どうしていいのか、本当に分かんないの。でも、このままはよくないよね。だって私、成仏できてない浮遊霊とかっていうやつだよね」


ふむ、と私も考え込む。
確かに、一般的には死者は成仏して、あの世と呼ばれる世界へ旅立つはずだ。
そうして、罪を償ったり、はたまたこの世に転生したりする。
太古の昔から、死後はそんなシステムであるという話だ。

それならば、美月ちゃんは間違いなく極楽浄土に旅立って、幸せに暮らすか転生するかに決まっている。
私から離れられなくなって、あげくに私のアホな寝顔をぼんやり見ている暇なんて、ないはずだ。


「うー、ん……。どういう不具合が起きたのかは分かんないけど、本来なら成仏するはずなのに、できてないってことだもんね……」


考えながら言うと、美月ちゃんが「そうなの!」と言った。


「あたし、こんな年で死んじゃったからもちろん未練はいっぱいあるの! 死んでる場合じゃないって思ってるの! 未練たらたらだから、こんな状態になったのかなと思ったんだけど。でもね」

「でも?」

「でも、未練なくスッキリ死ぬ人なんてそうそういないと思うんだ。みんな、心残りを抱えてると思う。
その人たちみんなが浮遊霊になってたら、この世界って霊が溢れかえっていてもおかしくないよね⁉
そして、それだけ霊がいたら、この世の中はもっと幽霊が身近になっているはずじゃない?」


頷いた。
それは、その通りだ。
何年、何十年、何百年もの時の中で、未練を抱えて現世に残った人たちなんて何人いるかしれない。
その人たち全員が、今も空中をさまよっているなんて、ありえない気がする。

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