あの日のきみを今も憶えている
「だから、あたしの今の状況ってやっぱりおかしいんだよ。
滅多にない事なんじゃないかな、って思う。
どうにかしないといけないんだけど、それはすごく分かってるんだけど、でも誰にも相談できないし……」


頬にかかった髪を一筋払って耳にかけ、美月ちゃんがため息をついた。
その不安そうな、泣き出すのを堪えているような顔に、胸がぎゅっと痛む。

命を落としてしまったというだけでも、受け入れがたいことだ。
『はいそうですか、分かりました』、なんて、どんな人だって言えないはずだ。
まず私だったら泣いて暴れて、発狂したかもしれない。

その上、誰にも姿を認めてもらえない『浮遊霊』みたいな存在になってしまっている。
不安に押しつぶされていて当然だ。
なのに美月ちゃんは冷静に、話をしている。
それってすごいことだ。


「一体、どうしたらいいんだろ。こんな宙ぶらりんな状況、怖いよ」

「……あの、さ。美月ちゃんは他の人たちにも未練があるって言ったけどさ」


美月ちゃんが私に顔を向ける。


「でもさ、美月ちゃんの中の未練や心残りが、やっぱり上手く成仏できない原因かもしれないと私は思う。ていうか、それ以外今は思いつかないな」

「……うん」


美月ちゃんが頷いた。


「だから、その心残りを少しでも減らしてみる、っていうのは、どうだろう」


考えながら言うと、美月ちゃんが「え?」と言う。その顔を見ながら続けた。


「思い残しを、少しでも減らそう。例えば、園田くんにもう一度会いたいとか、話をしたいとかさ」

「あーくんと、話……」


美月ちゃんの目が、きらりと動いた。


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