あの日のきみを今も憶えている
「そう。あとは、えーと、えーと。ああ、なんでもいいよ。
やりたかったこととか、したかったこと。
思いついたこと何でもしよう。私、協力するよ」

「え? 陽鶴ちゃんが、協力?」

「うん。美月ちゃん、私と一緒にいないと動けないんでしょ?
てことは、私も一緒に行動しないといけないんだよ、きっと。
私に、美月ちゃんに協力してあげなさい、って神様が言ってるんだと思う」


園田くんでも、両親でも、誰でもなく。
私だけが彼女を見ることができるというのは、もしかしたらそこに何かがあるのかもしれない。

私じゃないとできない何かがあるのかもしれない。

それなら、私は何だってしよう。
彼女の為に、何だって手伝おう。


「そんな。陽鶴ちゃんにそこまで、頼っていいの? 迷惑でしょう?」


美月ちゃんが申し訳なさそうに眉尻を下げる。
声はとても頼りなくて、不安げだった。

私はもそもそとベッドから降りた。
頭が少しふらついて、捻挫した足に鋭い痛みが走る。
それでもどうにか彼女の正面に座った。


「陽鶴ちゃん?」


えへへ、と笑ってみせた。
私の笑顔は、人の気を抜けさせるという効果がある。多分。
姉みたいに美人じゃないというのも、たまにはいいことがあるのだ。


「私が一緒に、何でもやる。だから、安心して。
美月ちゃんの不安、私が半分貰う。だから、大丈夫。

美月ちゃんは、一人じゃないよ」


もう一度えへへ、と笑うと、美月ちゃんがびっくり顔で見た。
それから見る間に、美月ちゃんの大きな瞳から綺麗な涙が溢れた。
頬を伝ったその涙は、彼女のスカートの上にパタタッと音を立てて落ちた。


「陽鶴ちゃん、ありが、と……」

「う、うわ! 泣かないでよ、美月ちゃん」


私は慌てて美月ちゃんに手を伸ばした。
しかし、触れる前にぱっと止める。

私の目には、美月ちゃんははっきりと存在している。
栗色の髪は一本一本煌めいているし、桃色のほっぺたは柔らかそうだし、ぎゅっと引き結んだ唇は僅かに震えている。
しっかり、見えている。

しかし。

彼女の頬を伝う涙を拭おうと伸ばした私の指先は、空を舞った。
正確に言えば、彼女の体を何の抵抗もなくすり抜けた。


「あたし、幽霊だよ? なんでもすり抜けちゃう。ほら」


泣き笑いした美月ちゃんが私の手を掴んだ。
けれどそれもするりとすり抜けてしまう。私の手を握る感覚は、ない。

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