あの日のきみを今も憶えている


「じゃあ、また夕方!」

「五時に校門の前で待ってるから、あとでね」


お昼ごはんを食べた後は、いつも通りお互い部活に戻る。二人に手を振って、私は美術部に向かった。


「おはよーございます」


部室には、数人の部員がいた。珍しく、杉田先生が指導している。


「おう、福原。おつかれさま」


私を見た杉田先生が、にっと口角を持ち上げて意味ありげに笑った。


「お前、モテるのな」

「は?」

「きいたぞ。陸上部のイケメン二人、餌付けしてんだって?」

「は?」


見れば、周りの部員までもがニヤニヤしている。


「色んな部で、すっごい噂だよ。あの長尾くんと園田くんが陽鶴の前だと飼い犬みたいにニコニコしてるって」

「長尾くんが陽鶴にメロメロだって話だよね。どうやって、あの長尾くんを落としたの」

「は、はあ……」


そんな話になっているのか……。
って、美月ちゃん。
いくら誰も見てないからって、そんなに爆笑しないように。


「ヒィ、あんな大型犬二匹も飼ってたの⁉」


いやいや。
大型犬のうち、一匹は美月ちゃんのだから。


「たまたま仲良くなって、一緒にご飯食べてるだけだよ。穂積くんは、まあ、うん」


はあ、とため息をつきながら言う。

穂積くん、噂が広がりすぎてるよ。
穂積くんの、後々の恋愛に支障をきたしたらごめん。


「でも、よかったじゃねえか」


杉田先生がしみじみ言うので、顔を向ける。
先生はグラウンドの方に視線を向けながら独り言のように続けた。


「笑えるようになったんなら、何よりだ。陸上部の原田先生も、覇気が出て来たって喜んでたぞ」

「そうですね」


美月ちゃんと顔を見合わせて小さく笑い合った。
あんな酷い状態から抜け出てくれたことは、本当に嬉しい。
自分の多少の寝不足なんて、どうでもよくなるくらいに。


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