桜の花びらの記憶
「由梨、お前なんでこの駅にいるんだ?」

 そっちこそ……と言いかけて思い出した。

 お兄ちゃんが通う高校はこの駅の前だった。

「……うん、電車に乗ってたんだけど、降りる人たちに押されて、一緒に降りちゃった」

 お兄ちゃんは、ぶっと吹き出しゲラゲラと笑った。

「お前、やっぱ変わんねえな」

「なによ」

「かわいい子がベンチに座ってんなーと思ったら由梨なんだもん、焦ったよ。でも、中身はやっぱ、由梨なのな」

「なにそれ」

「いやいや、かわいくなったなー、お前。そっか、二コ下だもんな、もう高1か」

 なんか、お兄ちゃんだ。

 私が知ってるお兄ちゃんだ。

 見た目は大人っぽくなってカッコよくなったけど、中身はお兄ちゃんだ。

 この笑顔も、ちょっとしたしぐさも。

 うれしくなった私は、やっと素直に話ができた。
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