溺愛ドクターは恋情を止められない

冷静になり、それに気がつくと、途端に動揺して目が泳ぐ。


「よくやった」


先生はその様子に気がついて、唖然として立ち尽くす私のグローブを外してくれた。


「先生、すみません」


その時、ナースが駆け込んできた。


「ありがとう、松浦。もういいよ」


高原先生に小さく会釈をし、ナースにバトンタッチして処置室を出ると、ふと緊張が緩んだ。


怖かった。
先生は傷は浅いと言っていたけれど、それでも出血は大量だった。

だけど……不思議と血への恐怖より、手助けができたことの満足感の方が、勝っている。

当然、医療行為をしたわけではない。
ただ、押さえただけ。

それでも、どれだけ大変でも、患者を救うことに全力を傾ける先生達の気持ちが、少しだけわかった気がした。


結局その患者は、他になにも異常が見られず、酔いがさめるまで入院となった。
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