戦慄のクオリア
「当然だ」
「では、そろそろ本題に入りましょう。此方がラ・モールの情報です」
グレンが差し出した茶封筒には小さな膨らみがあった。ベンジャミンは茶封筒を取り、逆さにすると、中からメモリーカードが出てきた。ベンジャミンは小型パソコンに差し、データの確認をした。
「確かに」
メモリーカードの中身はベンジャミンが欲した内容がしっかりと入っていたので、次はベンジャミンがグレンに茶封筒を差し出した。中には札束がぎっしり入っていた。
「確かに」
此方も情報に相応しい額のお金が入っていた。此れで用は済んだ。此れ以上此処に長居する必要はない。グレンは札束を懐に仕舞い、席を立った。
「今後ともよろしくお願いします。ベンジャミン・フランク大佐」
一礼して、グレンは会議室を出て行った。其の後ろ姿をベンジャミンは不機嫌そうに見つめた。
「グレン・パイレーツ。若干一六歳で中佐の地位につき、功績を重ねて大佐の地位まで上り詰めた男。なかなか侮れん。だが、まだ若い。此方が一枚上手」
終始不機嫌そうな顔をしていたベンジャミンはグレンが出て行って初めて笑みを浮かべた。


 グレンは廃ビルから出てきた。其の姿をエヴァネンス・アーチャーは物陰に隠れてみていた。
「エレジア連邦国防大臣、ベンジャミン・フランクと密会とは。うちの大将もなかなかだね」
グレンはラ・モールの情報と引き換えに金銭を受け取っていた。
「何か裏があるのか、単なる売国奴か」
エヴァネンスは人目を避けて学校に戻るグレンを見つめた。
「まぁ、俺には関係ないか」
エヴァネンスはラスール帝国人だが、此の国に愛着があるわけじゃない。仕事だから戦っているだけで、国を守る気持ちなど微塵もない。滅びるなら滅びればいいとさえ思っている。
「そういやぁ、あの子此のことを知っているのかな」
エヴァネンスが言うあの子とは、スカーレットのことだ。ある日突然、グレンはスカーレットを連れてきた。
無機質な目をしていたが、其の奥には全てを燃やし尽くす仄暗い闇が宿っていた。そして口元にはうっすらと笑みを刻んでいた。とても不気味な少女。
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