戦慄のクオリア
「グレンが教えるわけないか」
勘だが、グレンは誰も信用しないタイプだと思う。
「そういやぁ、此の前、弟と二人で面白い話をしていたな」
 エヴァネンスはスカーレットとジェイドの姿を思い浮かべながら学校に戻った。どっちを、どういうふうに弄ってやろうかと考えるだけで、エヴァネンスの心は楽しげにスキップを始めていた。
「おや、早速発見☆」
 学校に戻って直ぐ、エヴァネンスは屋上に居るジェイドを見つけた。校内に入ってからだと遠回りになるので、非常階段を使ってエヴァネンスは屋上に入った。
「一人か、珍しいな」
 声で、直ぐに誰かを理解したジェイドは完全にエヴァネンスを無視した。エヴァネンスが其れに気づいていないのか、或いは気づいていても気にしていないのか、ジェイドには分からなかった。
「屋上は立ち入り禁止のはずだけどな」
 エヴァネンスは構わず声をかけてくる。さすがにジェイドの隣に立つことはしなかったが、其れでも数歩の距離までエヴァネンスは近づいてきた。
「此の前、面白い話をしていたな」
「・・・・」
「お前、結局、愛しい姉さんに一番聞きたいこと、聞けなかったんだろ」
 ジェイドは答えなかったが、フェンスを握りしめた彼の手には力が込められていることにエヴァネンスは気づいていた。
「お前の愛しい姉さんは、お前が何を気にしているか気づいてはいなかった。でも、俺には解った」
エヴァネンスは不敵な笑みを浮かべた。ジェイドを挑発し、ジェイドの本性を引きずり出そうとしているのだ。
「お前は姉さんにこう聞きたかったんだろ。『姉さん、僕のことを恨んでる?』」
 いよいよ無視できなくなり、ジェイドは背後に居るエヴァネンスを振り返った。エヴァネンスは出会った時と同じ、人を挑発するだけの笑みを顔に刻んでいた。其れがジェイドを更にイラつかせた。其れでも怒鳴り散らさなかった自制心の強さにエヴァネンスは感心した。

(でも、そんな余裕、直ぐに失くしてやる)

 エヴァネンスは続けた。
「スカーレット・ルーフェンは君のことを恨んでいても何ら不思議じゃないよね。だって君が彼女の運命をぐちゃぐちゃに壊したんだから」
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