戦慄のクオリア
「スカーレット、どうかした?」
「何でもないわ」
中庭に居たスカーレットは誰かに見られている気がして、其の気配を探して上を向いたら、一瞬だけ男と視線が合った気がした。でも、一瞬の出来事なので、気のせいだと此の時のスカーレットは大して気にも留めなかった。
「そろそろ授業が始まる。戻りましょう」
「はい」
スカーレットは群れを引き連れ、自分のテリトリーに戻った。机について直ぐ、チャイムが鳴った。
「席に着け」
器械のように時間に正確な教師が教室に入り、教壇の上に立った。
「テキスト四三二頁」
先生は自分で指定した頁を直ぐに開き、生徒に背を向けて黒板に文字を書き始めた。生徒はというと、指定された頁を瞬時に開き、真面目に授業を受ける者も居れば、かったるそうにペラペラと頁を捲る生徒、始めから授業を受ける気がなく、友達と楽しそうに話をしている生徒などだ。
 正方形の檻の中では、同じ場所に居ながら、バラバラなものを視界に宿している人達を無視して、授業は先生が決めた速度を維持したまま進められていく。
 そんな中、スカーレットはぼんやりと空を眺めていた。だからだろう。彼女が一番先に此の国に起きた異変に気が付いたのは。
ガタンッ
勢いよく立ち上がったせいで椅子が後ろに倒れ、大きな音がした。
「どうした、ルーフェン?」
教室に居る全員がスカーレットに注目をしていたが。だが、其の視線も、スカーレットの異変を問う教師の言葉も、スカーレットには入っては来ない。彼女の目は天空を貫く、炎の玉に釘付けだった。
 太陽が落ちてきた。と、スカーレットは思った。本当に落ちてきたわけではない。ただの比喩だ。それぐらい真っ赤な火の玉が街中に落ちた。
 学校から数十キロも離れた場所に落ちたのに、学校の窓ガラスが全て割れ、机が吹き飛ばされるぐらいの激しい爆風が生徒達を襲った。
「・・・・っ」
視界が一瞬で砂塵に包まれた。意識がほんの数分飛んでいたのだろう。火の玉が落ちてから少しの間の記憶がない。起き上がろうとした時、スカーレットの全身を激痛が走った。腕や足、頭部から生温かい液体が流れ、床にポタポタと落ちた。それは、彼女の服や床を赤く染めた。腕と足には割れた窓ガラスが突き刺さり、爆風で飛ばされた時に何処かで頭を強打したらしく、頭部からは血も流れていた。上に、頭がクラクラし、視界が定まらず、スカーレットは上手く立つことができなかった。
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