迷うことなく、君に向けるなら
「私だって、こんな予定じゃなかったの。ちょっとだけ借りる予定だったのよ……」

「その“ちょっと”がまさか大悪魔の左腕っていうのが笑える」

「笑えないから……!!」



とある空の、とある天界エリア8にて。

ひとつのドーム型の白い建物。
人間の世界でそこを、家と呼ぶのだろう。

その中にひよっこと揶揄された天使の少女と、その少女から貰ったのだろう、薄桃色の布地をフードの様にかぶった“ユザ”と呼ばれるものがいた。

見てくれは、少女は18〜20程、ユザは15位の少年であった。その割に、ユザと呼ばれる少年の態度は少女より大きい。




「いただきます」

「いただきます」


2人して中睦まじく朝食を取る。

こうして迎えた朝は、今日でちょうど10日目だった。

(思えばユザを召喚してからもう10日も経ってるのか……)


不思議なことに、10日しか過ごしてないのにも関わらず、毎朝朝食を2人分作ることにも慣れてしまった。

ユザの纏う空気が、私に心地よく触れるせいでもある。

「まぁ、そりゃあそうだよ。僕はーーシェナの一部だからね。考えてることはほぼ伝達してくるし、シェナの馴染みやすい存在にはなるさ」

こんな甘ったるい感じは久しぶりで最初吐き気がしたけどね、とやはり毒は忘れない。



「そうだよなあ。一部だって言われると魔族も憎めない」

「なーに呑気なこといってんの。僕の存在が大天使にでもバレたら、シェナ、地獄どころじゃないかもよ?」


呆れた口調でそう言ってシェナを一瞥しては、朝食を頬ぼった。


そうなのだ。

天使が悪魔の使い魔を召喚しただなんて、禁断にも程がある。

(これがもう大天使様の耳にでも入ったら私はーーー)



リリン、リリン。

リリリリリン!


突然、家の中にけたたましいベルの音が響く。

この音は、全エリアに同時に流される大天使様からのお言葉の合図だ。


「あれ。いいタイミングでお呼びなんじゃない」

「い、いやいやっ、タイミング良すぎるからないね」


しかしこのときシェナは、喉元まで息がつまりそうな程、嫌な予感しかしなかったのだ。



『ーーーエリア8、天使2000羽(う)と54角、シェナ。15の鐘がなる前に大聖堂まで来ること』


ユザとシェナが顔を見合わせる。


「ほーらみろ」


ニマニマと笑うユザに、何も返すことができなかった。

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