二人一緒の夏
カタカタと鳴る下駄の音が心地いい。
カツカツと鳴らすヒールも好きだけど、しっとりと歩く下駄の音は風流だ。
慌ててアップにした髪の後れ毛が、うなじを撫ぜていく僅かな風に揺れる。
神社に近づくにつれ、賑わいがましていった。
たくさんの人の中に見知った顔がいないかと、初めのうちはキョロキョロしていたのに、いざたこ焼きや焼きそばなんかの匂いがしてきたら、それどころではなくなっていた。
金魚を一匹だけ捕まえて、腕が鈍ったかも、と首をかしげながらヨーヨーを手にする。
味噌おでんとたこ焼きを手に神社の奥へと向かい、歩きながらおでんを消費。
色気も何もない。
神社の裏に回ると、昔と何も変わらず背の高い草が生い茂っていて、行く手を阻んでいた。
「開けゴマ」
一人で呟いて、浴衣だっていうのも構わず草むらを掻き分けて奥に進むと、懐かしい原っぱに出た。
「かわってないなー」
何もないその開けた狭い敷地。
下駄の音も柔らかく受け止めてくれる緑の上を歩いていき、ブロックが積み上げられている場所にハンカチを敷いて腰掛けた。
「特等席なんだよね、ここ」
ふふん。と誰もいないのに得意げに笑う。
ココから観る花火が一番綺麗なんだ。
昔は裕樹と、よくここで花火を観たっけ。
どっちが大きい金魚を捕まえたか比べっこしたり。
りんご飴を食べて、二人で真っ赤な口の周りに笑ったり。
一つのたこ焼きを二人で摘んだり。
ひとつひとつ思い出して行くと、たくさんありすぎる大切なものにぎゅっと胸が苦しくなっていった。
元気にしてるかな。
ポツリ、誰にも聞かれることのない言葉。
まったなぁ。
もう平気だと思ってここに来たのに、やっぱりまだしんどいや。
目じりに滲んだ雫を拭っていたら、おなかに響く音と共に花火が始まった。
首が痛くなるほど上を向いて、涙がこぼれるのを堪えてみる。
広がる色とりどりに咲き誇る花たちに見惚れていたら、自然とあの頃二人で観た花火の色が重なっていった。
「きれい……」
裕樹と一緒に観たかったな。
涙で滲む花火から無理やり目を逸らすと、さっき買ったたこ焼きに目がいった。
一人で一つ食べるのは、初めてかも。
いつも、裕樹と半分ずつしていたから。
パックの蓋を開け、割り箸を握ってしみじみとたこ焼きを眺めていたら、頭上を照らしていた花火の光に陰が重なった。