壊れる前に
chapter1
荒い呼吸を整え深呼吸を何回かした。脱走から結構時間はすぎているはずなのに全く追っ手が来ない。

『これなら、行ける・・・!』

脳裏をよぎったが私は軽く頭を横に振り自身の甘い考えに溜息をついた。

お母様が私の脱走を知らないはずがない。


もしかしたら、計画から知られているかもしれない。そう考えると寒気がしてきた。

しかし、裸足で外を歩くなんて何年ぶりだろう?外に出るのが久しぶりすぎて外の環境に私は目を輝かせた。

鳥の囀り。地面を踏む感触。綺麗な川・・・

言い出したら切りがない。

『だめだめ。少しお墓参りに行ったらすぐ戻るんだから。』


自分に何度も言い聞かせるように私は道を急いだ。


今日はお盆。

私はお墓参りに来ただけ。

・・・屋敷を抜け出して。


ずっといけなかった、お父様のお墓参り。

この道をずっと歩けば着くはず。


お父様のお墓は屋敷から徒歩20分くらいの場所にあり、私とお母様は一度もお墓参りに来たことがない。それどころか、葬儀にすら出席させてはもらえなかった。


理由は単純。


「会社を優先するわ。」

と、寂しそうな顔で無理矢理作り笑いをしたお母様を今でも覚えている。父が亡くなったあの日からお母様はバタバタと屋敷を走り回るようになった。

当時6歳子供でも分かるお母様の寂しい笑顔は未だに忘れられない。

そして、いつからかお母様は・・・



『あ、ついた!』

まっすぐ、雑木林のような道を抜けると、立派な墓石が目にはいった。

私は来る途中でつんできたお花を墓石の前にそっと置いた。お線香はないけれど多分、大丈夫・・・?

私はしゃがみ込み、両手を合わせて目を閉じた。

『お父様。お久しぶりです。初めてこの場所に来ましたが立派な墓石ですね。長い間独りにしてすみませんでした。これからも、お母様のこと見守ってください。』

私は墓石を見つめてお父様を思い出した。

あんまり記憶はないけど、優しくて、威厳のある父だった。

でも、あの日・・・すべてが

狂ってしまった。
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