カタブツ上司に迫られまして。
興味深い……興味深いの? 私が?

「……さすがに赤くなったか」

ニヤニヤ笑いの課長を見て、眉を吊り上げる。

か、からかってるわね!

「食べに行きましょう! ラーメンでも焼肉でも!」

勢いよく立ち上がったら、課長は何故か呆れたように苦笑した。

「色気がねえの選んだな」

「無くて結構です!」

「馬鹿が。それは女が考える“色気のない”店だよ。麺をすする女なんて、そそるだけじゃねぇか」

「ちゃ、ちゃーはん食べます!」

「なら、中華にするか。近所にうまい店があるんだ」

あっさり課長は呟いて、家の窓を閉め始めた。

「……あの」

ほ、放置?

ポカンとしていたら、楽しそうに振り返られた。

「本当に面白いなぁ。お前」

「私は面白くないです!」

とりあえず、リモコンでテレビを消すと、二人で家を出てから課長が鍵を閉めた。

街頭があっても薄暗くなってきた住宅街は、すれ違う人も少なくなってきている。

もともと住んでいたマンションから、離れているわけでもないのに、何だか全く知らない土地みたい。

夏特有の生ぬるい風がまとわりついてきて、カラコロと隣りを歩く課長の下駄の音がする。

「たーさん」

「たーさんは却下。何だか急に老け込んだ気分になる」

「……結構、我が儘ですね」

「任せろ」

任せないけど。

まぁ、仕事中も結構強引なとこあるもんね。仕事中の課長はビシッとしていて、近寄りがたいけど。

「下駄、好きなんですか?」

「ん? ああ。楽だし」

サンダル履くような感覚なのかな。
確かに涼しくて楽そうだよね。
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