カタブツ上司に迫られまして。
キリッとして言うと、両手で課長の手を掴む。

「営業車なんて置いていけばいいんです。そんな状況で運転して、課長が事故を起こしたら元も子もないんですからね!」

課長は黙って私を見下ろし、それから少し眉を下げた。

それから原本さんを振り返って頷く。

「原本。頼む」

「オーケー。とりあえず上野君は助手席乗って。鳴海ちゃんはそのまま笹井の手を握って後ろに乗って。そいつの精神安定剤みたいだから」

「え?」

上野君が驚いたように課長と私を振り返り、それから瞬きをする。

「え。鳴海さん。課長と……?」

「違うから! 今はそんなこと言っている暇はないから!」

噛みつくと、慌てて助手席に乗り込む上野君。

営業車に乗せるはずだったファイル入り段ボールは原本さんの車に乗せ、それから課長と一緒に後部座席に乗り込んだ。

お母さん。無事だといいけれど。

課長が原本さんにお母さんの運ばれた病院を伝えると同時に車は動き出す。

課長はしばらく窓の外を眺め、私は繋いだままの手を眺めた。

「……取り乱した」

静かな声に課長を見ると、握った拳を口許に当てて苦笑しているみたい。

実際、うちの両親は健在だし。姉も弟もいるし……。

その不安は解らないけれど。

「課長はご兄弟いらっしゃいますか?」

ちらっと課長が私を見て、それからまた窓の外を見て、しばらくしてから強く手を握り返された。

一人っ子だと、不安は倍増だよね。
誰かがいれば……不安も少しは薄まるものだし。

そっと繋がれた手に手を重ねる。

無事だといい……。
あの笑顔がなくなるのは、私も嫌だ。

そうして沈黙のまま、車は病院についた──









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